てけてけという音がよく似合う。
僕の目の前には楽しそうにはしゃぐ男の子と女の子の兄妹。
少し心配性な兄はきゃきゃと走り回る妹を止めようと必死に追いかける。
我が子ながら自分に似なかった運動が不得手なところに苦笑がこぼれてしまう。

「お父さん、どうしたの!早く帰ろうよ!」

足を止めてしまった僕を不思議に思ったのか、二人の兄妹が寄ってくる。
今は買い物の帰りだった。

欲しいものがあるの、と珍しく上の息子におねだりされて、羨ましがった下の娘を連れて近くのデパートに行った。
これ、と差し出されたのは今人気の戦隊ものの変身セット。
年の割には大人び過ぎている息子が年相当のものを欲しがって、思わす笑みがこぼれた。
いいよ、と言うと花のように微笑んで。
それから私も欲しい!と言いだした娘に好きなのを取ってきておいで、というとこれまた可愛らしい人形を持ってきた。
それらを持ってレジに行く。以外に値段が張ってびっくりもしたけれど、ありがとう、 と言われてまた微笑まれてはこちらも本望だった。
愛しいと、思わずにはいられなかった。

両手に塞がった荷物を片手に持ち直しごめんね、と二人の頭を撫でる。
くすぐったそうに笑う二人。
ゆっくりと足を進めると、それに合わせてまた妹が駆け出し兄がそれを追いかける。

待ち望んだ魂。必死に探し続けた、彼の魂。
会いたい愛しい。今度こそ、幸せになりたい。幸せにしたい。

もう 憎み合うことのないように 彼と 幸せ に









「ほら、車には気をつけるんだよ、ルルーシュ!ナナリー!」












ああ。どうして僕らは親子なのでしょう。









































いわゆる前世の記憶、というものに気づいたのは10歳の時だった。
交通事故にあって、その時に強く頭を打った。
最初は見たこともない世界で、戦争の中心にいた自分が、怖くて仕方がなかった。
医者は事故によるショックだろう。たまに前世の記憶らしきものを持つ人がいると、そう言っていた。

悲しかった。
当時まだただのやんちゃな子供でしかなかった僕にでも、その世界は酷く恐ろしくて、 悲しみに満ちているのだということが分かった。
そして何より、

(俺は、きっと、この人が、とても大事で、大切で、好きで、愛していて、だから、憎んで、)

記憶の中の僕はいつも同じ人のことばかり考えていた。
流れるような黒髪に宝石のような瞳。
仮面を被ってゼロと名乗り、そして僕と敵対していた、ただ一人の、敵。

最初は断片的でしかなかった記憶も1か月もしないうちにすべてのことを思い出した。
自分は日本という国の最後の総理大臣の子供で、黒髪の少年は敵国であった国の皇子だということ。
そんな自分たちがどのように出会ってどのような経緯で仲良くなってどのような経緯で離れ離れになって どのような経緯で再会して、どのような経緯で愛し合うようになって、そして、どのような経緯で憎み合うようになったかも。 すべて。

それから僕はただ彼を、ルルーシュを必死に探した。
会いたい。その一心で。

だけどそれからどれだけ時が流れてもどうしても彼を見つけることはできなかった。
たとえ彼の姿かたちが変わっていようと一目見ればわかると、そう自負していたのに。

17でお見合いをした。
国でも有数の企業の社長の一人息子である僕は、心もない結婚をすることになるということは理解していた。
でも頭では理解していても、心がついていかなかった。
だって僕の心はいつでもルルーシュだけを思っているのだから。
彼が生まれ変わっているのなら、それならば男だろうと女だろうと構いはしない。
もう一度、彼と愛し合える関係になれる自信はあったのだ。

相手はうちの次くらいに大きい会社の社長令嬢だった。
僕の父さんによって経営難に陥ったところを、僕らの結婚という形でその会社を吸収するのだと父は言っていた。
元より拒否権などなかった。
それから父に急かされて20で長男が生まれた。

僕は、その時絶望した。
前世の僕が、ルルーシュが憎むゼロだと知った、その時と同じくらいに。





「ルル、シュ」





生まれた息子は間違いなくルルーシュだった。










僕のこの一言を聞いた妻はこの名を気に入って、生まれたばかりの子供にルルーシュと名付けた。
月日を重ねるごとに、どんどんとルルーシュに似ていく我が子。
彼の下にできた娘も、ナナリーだった。
ナナリーが生まれた日、僕は初めて泣いた。

(ルルーシュとナナリーはまた兄妹として生まれてきたのに、どうして、どうして、僕は、)



どうしてよりによって かれが ぼく の こども なの だ  ろ   う















「お父さん。どうしたの?なんで、ないてるの?」

ハッと気がつけば、目の前には二人の自分の子供がいた。
心配そうに、泣きそうな目で見上げるふたりのこども。ぼくのこどもたち。
周りを見れば、僕はさっき気をつけるように言った場所から一歩も動いていなかった。

「おとーさま。かなしいこと、あったの?だれか、おとーさま、いじめたの?」

ルルーシュに言われて、そこで初めて自分が泣いているということに気づいた。
何でもないよ、と涙を拭って彼らに目線を合わせるようにしゃがみ込む。
半分泣きそうに眼をうるめているナナリーの頬にキスをした。

「ごめんね。父さん誰にもいじめられてないよ。ちょっと、目にゴミが入って痛かっただけ」
「ほんと?まだ、いたい?」
「もう大丈夫だよ!ありがとう、ナナリー」

地面に荷物を置いて、髪を撫でて抱きしめる。
ナナリーが嬉しそうに笑って、僕も彼女を離した。
するとすぐにころころと笑って僕の回りをぐるぐると走る。
よかった!おとーさま、よかった!
そんな娘をみて、きっとナナリーも小さいときはこのように走っていたのだろうと、思った。


「お父さん」
「ん?どしたの、ルルーシュ」
「いたいのいたいの、とんでけー!」

頬に、キス。
僕のまねをしたのだろうか。確かに、ルルーシュの唇が、僕の頬にふれて。

「も、いたくない!も、お父さん、なかない!」

ね!とルルーシュは笑った。







たとえばこれが逆だとしたら。
(ルルーシュが父親で僕が息子。それならば僕はきっと何のためらいもなくルルーシュを愛しただろう。)
時間をかけてでも忘れていた記憶を僕が思い出させて、そして、今度は二人で幸せになって。

「え!!お父さん、まだ、いたいの?なんで、まだ、ないてるの?」

でも僕は父親だ。
そしてルルーシュは前世の、あの辛い記憶のない、それもまだ小さな子供。

「ごめんごめん。お父さん、ルルーシュが優しいから嬉しくて泣いちゃった」

もしたとえルルーシュに前世の記憶が戻るとしたら、それはそれで彼を苦しめるだけの結果になるのだろう。
それならばいっそ、辛い思いをするのは僕だけで十分だ。
少しさみしい気もするけれど、ルルーシュは前世のことなど思い出さなくて、この時代で、 愛する人と幸せになってくれれば、僕は、それで。

「大好きだよ、ルルーシュ」

思い出しても、たとえ彼が僕を愛したとしても、待っているのは親子という、崩しようのない、関係だけなのだから。























ルルーシュが微笑んだ。僕もお父さんのこと大好きだと。
僕はそれを笑って受け止めて、そして家族愛という偽りで包んだたったひとつの僕の愛を君に囁くのだ。

これが愛さなければならない、日常の、かたち。




















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生まれ変わりネタでスザ→ルルです。
私はあまり生まれ変わりネタというのが好きではないんですがネタの神様がご降臨されまして(笑)
その神様が親子にしてスザクを片思いにしてしまえ!と。お告げの結果がこれです。
薄暗いですね!うっわぁごめんなさい!でも楽しかった!

ちなみに裏設定。奥さんは神楽耶の生まれ変わりだったり。
んでもってルルーシュも10歳のときに同じように事故に遭って前世を思い出しちゃったりします。
ルルーシュが思い出してからの二人は希望があれば書いちゃったりしようかなぁなんて。



2007.10.06