私の名前を呼ぶやつがいる。
その男はどうしようもなくまっすぐに、そして不器用にしか生きることができない。
そんなやつだと、C.C.は認識していた。




大好きなピザのキャラクター、チーズ君は彼女のお気に入りだった。
ほどよい手触りのそれを抱いて共犯者のベッドの上にごろんと転がる。
はあ、と静かに溜息をついてC.C.は目を閉じた。

(馬鹿だ。あいつはどうしようもなく馬鹿だ。)

私がどれだけ好きにしようと、たとえばあいつのカードでピザを頼もうとあいつの服や制服を着て学校をうろつこうと。 その時は確かに怒る。怒って後からも女々しくねちねち言ってくるがそれで終わりなのだ。
決して私を追い出そうとしない。口先だけで、呆れたように言って、そして最後に優しく、笑うのだ。
それは父のように母のように兄のように、恋人のように。

あいつは私を共犯者だと言う。
それは全くもって正しいことだ。あいつと私の関係を表すのはただ一つそれしかない。
けれど私の名前を知られたあの日、きっとあいつは私を見たのだ。恐ろしくフラッシュバッグされた、過去を。
それに対してどう思ったのかなんて興味はない。
ただ、あの時のあいつの声に存在に、私は 救われた。



C.C.はチーズ君を抱いたまま身体を反転させた。
そのことによりシーツが乱れる。床にも脱ぎ捨てたC.C.のブーツが転がっている。
ああまたこれを見てあいつは怒るのだろうな、とC.C.はチーズ君に顔を埋めて思った。

(お人好し。馬鹿。童貞。)

でも。いや、だからこそ、どうしようもなく。


(いとおしい)










C.C.はどうしても枢木スザクが許せなかった。
人にはひとそれぞれの考え方があるのは当然だと思う。けれどその考えを頭ごなしに否定する権利は誰も持っていないのだ。
あの男はゼロを尽く否定する。
確かにゼロがやろうとしていることは数多の犠牲を要する。
それをよしとしないという意見があるのも尤もだ。
でもそこまでは許せた。

(だがあの男は、あの桃色の姫の、騎士になった)

ただ、それだけがどうしても許せなかった。





(あの男は知らない。あいつがどれだけお前を気にしているのかを)

(あの男は知らない。あいつがどれだけお前を思っているのかを)

(あの男は知らない。あいつがどれだけお前の行動に一喜一憂しているのかを)

(あの男は知らない。あいつがどれだけお前に身を焦がしているのかを)



(知らない知らない知っているはずがない。ルルーシュがどれだけ枢木スザクという存在を愛しているのかを)




(知っていた、はずなのに)

ルルーシュがどんなにブリタニアを憎んでいるのかとか、名前を偽って妹とひっそりと暮らしていることとか。
それなのにどうしてルルーシュの妹の騎士になったのだ。
あいつの近くに居過ぎて贔屓になっているのかもしれない。 けれど、私にはあの姫よりもルルーシュの方が何倍もお前を思っているとしか思えないのに。

(くやしい)




シュ、と静かな音を立ててドアが開いた。
視線だけやるとそこには呆れ顔をしたルルーシュが立っていた。
散らかすなだとか脱いだものは片づけろだとか、母親のようなことを言いつつも自らの手でそれを直していく。
その姿を見ながら、やっぱりこいつは馬鹿だと思った。

C.C.はベッドから身体を起こし、脱いだ制服をハンガーにかけているルルーシュの背に思いっきりチーズ君をぶつけた。

「何をする!」
「お前は私の共犯者だ」

はあ?とルルーシュが訝しげに眉間にしわを寄せた。
そんなことを気にするC.C.ではなく、彼女は睨むようにルルーシュの瞳をじっと見る。

「そして私はお前の共犯者だ」
「…どうしたんだ、C.C.?」

持っていた制服をかけてルルーシュはC.C.に向き合う。
衰えることのない、むしろ強くなったC.C.の目の力にルルーシュは無意識に一歩、足を引いた。

「だから。お前の悲しみも辛さもお前が望むのなら私も背負う。その代りお前も私の辛さを背負え。」
「……」
「お前は一人ではない。私は絶対お前を一人にしない。その代りお前も私を一人にするな。」
「C.C.…」
「一人では辛くとも二人では大丈夫だ。だから、お前は全てを背負いこもうとするな。」

「私は、お前のそばにいる。」

愛おしいのだ。

きっとC.C.が最後に小さく吐いた言葉はぶつけた枕によってルルーシュの耳には届かなかった。
けれど馬鹿か、とルルーシュがチーズ君をぎゅっと抱いて吐いた言葉はしっかりとC.C.の耳に届いて。

(ああ。やっぱりこいつは馬鹿でどうしようもなく愛おしい。)

C.C.はやっぱりそう思ったのだった。




















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C.C.視点の話を書きたいな、と思い立って書いてみましたらこの話。
なんだこれ。意味が分からないのはいつものことですね!
ちなみにC.C.はルルーシュのことが恋愛対象として好きとかじゃないんです。
ただどうしようもなく愛おしいんです。
スザルル←C.C.ぽくなりましたが、いちおうスザルルは普通の友達のつもりで書いたつもりだったり。
それにしてもC.C.は好きだ!母性のような感じでルルーシュを思っているんだと思います!



2007.12.11