今日は職員会議とかなんとかで午後は1時間だけの授業で学校は終わりだった。
それを知ったときに街まで買い物に行かないかと誘われて二つ返事で即オーケー。
断るはずがない。今まで全くの他人として振舞っていたから中学から同じ学校に通っていたのに放課後デートなんてしたことがなかった。
念願の制服デート!と喜色満面にルルーシュから見えないところでガッツポーズをしたスザクは相当舞い上がっていた。
同じく自ら放課後デートに誘うことに成功したルルーシュも相当舞い上がっていた。
スザクには淡々とした調子で告げていたのにスザクが背を向けるとほぼ同じにくるりと背を向けたルルーシュの頬はうっすらピンク色。
うざったくもあり微笑ましくもある、7年も同棲している人たちのする反応ではない反応をした二人にクラスメイトが中てられたのは2週間前。

たとえどんなに理知的でクールで女王様であろうとも、驚愕の身体能力を持ち独占欲の塊の俺様であろうとも、やっぱり17歳。
学校でも一緒にいることができてさらに自分を偽らなくてもいい。
そのことに舞い上がっていた二人のいつもならありえないくらい張り巡らせている危機管理能力は著しく低下していた。







(今日は念願の制服デートだ。 リヴァルの余計な一言のせいでルルーシュの機嫌が悪くなったがそれもなんとか回復させることができたしまあ今回は赦してやることにしよう。)

いつになく上機嫌なスザクは机の中身を些か乱暴に鞄の中に詰め込んだ。
それから忘れ物はないか確認し、すでに準備を終え自分の席で待っているルルーシュの元へと急ぐ。
シャーリーと話していたルルーシュもやってくるスザクに気づき、それじゃあと一言声をかけて立ち上がった。

「ルルーシュ行こうぜ」
「そうだな」

ちなみに今日の目的は「新しい鍋の購入」だ。
それを聞いた時スザクとしては何とまあ色気のないデートだ、と思わなくもなかったがそれでもデートに変わりはない。
どうしてそんなにくっつく必要があるんだ歩きにくくないのか、というツッコミを周りに飲み込ませながら二人は教室を後にした。



「これは?」
「うーん…もうちょっと大きい方がいいな」
「じゃあこっちはどうだ?」
「それは大きすぎる」

なかなか決まらない。
かれこれ調理用品売り場に来てから30分は経とうとしている。
粗方見当をつけていたルルーシュだけれども、「やっぱり現物を手に取ってみるのが一番だ」という考えと、 さらに発売されたばかりらしい新商品も並んでいて目移りして決めかねていた。
スザクとしては珍しいと思わずにいられない。
いつもは事前に隈なくチェックをして、店に着いたら目的のものへ一直線だ。
どれにしようかこれにしようかなど店で一緒に悩むことはなかったから初めのうちは楽しかった。 けれどそれが30分も続けばさすがに嫌にもなる。

(そりゃあ二人で相談して決めるのは楽しいけどな。でも買うのは鍋だし結局俺は使わないし。 どうせなら洋服とかアクセサリーとか、そういうので悩みたかった…)

鍋を買うという時点で甘い雰囲気など期待もしていなかったけれど、それでもスザクは少しだけ落ち込んだ。
いつどこで誰に会うか分からないから今までのデートのときはお互い変装していたし (といってもサングラスをかけたり、普段と違う髪型をしたり、深く帽子を被ったりする程度だ)、 洋服は友人たちと買いに行ったりするのでその経験もない。
つまるところ、変装もなにもなしでデートできるこの日が、スザクにとってはある意味初デートと同じようなものだったのだ。

(これが彼女の買い物に付き合う彼氏の気持ちか…)

ようやく決まったらしいルルーシュが鍋をレジへ持っていく後姿を見ながらスザクは一人思った。
けれど彼女の洋服選びの方が何倍も厄介だろうことを幸か不幸かスザクは知らない。
そう思いつつも零れた溜息にはどこか幸せそうで、スザクは戻ってきたルルーシュの手から鍋の入った袋を奪い取った。



ルルーシュは右手に鞄ひとつ、スザクは右手に袋ふたつ左手に鞄と袋をひとつずつ、という状態でショッピングモールを歩いていた。
鍋以外にも替えの電球や近くのスーパーではなかなか手に入らない味噌や醤油などの和食に欠かせない調味料、 それから細々とした物を買えばあっという間に荷物は増えていった。
最初はルルーシュも持つと言い合いになったのだがスザクがそれをよしとはせず、 また袋1つ1つが意外に重かったため長時間持ち歩くのは無理だと判断したルルーシュにより今の状況に落ち着いている。
制服さえ着ていなければ、買っている物は休日の夫婦の買い出しみたいだった。

「他に必要なものはあるか?」
「うーん…特になかった、かな」

シャーリーお勧めのレストランの一角に落ち着いて、ルルーシュは他に特になかったと思いそう返した。
ここから家まで帰るのに少し時間がかかるし折角だから、と二人は夕食を食べて帰ることにした。
大型のショッピングモールなので飲食店の数も多く、 あまりこういうところに縁のない二人は教室を出る前に教えてもらったシャーリーの好意をありがたく受け取った。
うん、と少し疲れた足を伸ばすと同じように体をほぐしていたスザクの足にこつりと当たる。

「はしたないぞルルーシュ」
「うるさい」

自分のことを棚に上げて、とさらに悪態をつこうとしたがそれは水とメニューを持ってきた店員によって声に出ることはなかった。
代わりに「ありがとうございます」とルルーシュとスザクも微笑んでメニューを受け取る。
思わず出てしまった猫被りに長年の習慣はなかなかとれないな、と顔を見合せて苦笑した。

「ルルーシュのおすすめは?」
「俺も初めてきたから。シャーリーがパスタ類が特においしいと言ってたぞ」
「パスタねえ…」

そう言ってメニュー表と睨めっこを始めたスザクにルルーシュは微笑んだ。
どうせおすすめを聞いてもこいつの頼むものは大体同じなのだ。
それが初めての店であればなお確実に。
緩む頬を隠さずにルルーシュは自分もメニュー表に視線をやった。

「…うん、よし決まった。俺、ハンバーグにする。デミグラスソースの」

ほらきた。
予想を裏切らないスザクにルルーシュはくすくすと笑いを零す。
なんだよ、と睨んでくるスザクの頬がうっすらと赤くなっている。

「悪いかよ」
「いや、全然。予想通りだなって。しかもライス大盛りだろ?」
「…ルルーシュは決めたのかよ」
「ん?俺はシェフのおすすめパスタ」

図星をつかれてスザクがふん、と顔を反らした。
それがまた可笑しくて笑いが止まりそうになかったけれどそろそろ笑うのをやめないと本格的にスザクが拗ねると思い、 ルルーシュは通りかかったウエイターに注文をしてどうにかやりすごした。

「…ん?」
「どうした?」

窓の外を見ていたスザクがふいに変な声を出した。
ちょうど注文を終えたルルーシュはそのままスザクに視線をやる。
拗ねて曲がっていた背中はピンと伸び眉間には深い皺、眼光も鋭く何かを探すように集中するスザクの横顔に自然とルルーシュの顔も険しくなる。
同じく外を見ようとしたルルーシュの顔はスザクの右手によって阻まれた。

「なるべく外を見るな」
「…どうした?」
「さっき、妙な視線を感じた」
「妙?」
「ああ。偶然じゃない。じっと俺たちを…特にお前を見てるような感じだ」
「クラスメイトとかではなくて、か」
「違う。これは訓練を受けた者だ。俺が気づくと一瞬で気配を消した。誰かは分からないがたぶん…」

あの辺、とスザクが睨む方向には合わせて7人いた。
カップルが一組と備え付けのベンチにそれぞれ距離をとって座るスーツ姿の男が3人、柱に寄りかかり携帯で話す男女が1人ずつ。
知っている人はいるか、と問われルルーシュは鞄の中から手鏡を取り出して少し窓に背を向けると、そっと外の様子を写した。
スザクもそれを覗き込み、こいつとこいつと…といった風に怪しいと思った人物に鏡を合わせる。
傍から見れば恋人たちがいちゃついているようにしか見えないから不審に思われることはないだろう。
スザクの挙げる人物の顔を一通り見て、ルルーシュは首を横に振った。

「…いない、な」

その出生故か性格故か、ルルーシュは少しでも関わったことのある人の顔は決して忘れないという自信があった。
だから少なくても整形をしていない限りここには見たことのある顔はいない。
それを告げると今度はスザクがいない、と吐いた。

「一人、いない」
「え?」
「携帯で話してた男が一人いない」

鏡から窓の外に視線を移して辺りを見回したが見つからない。
偶然かもしれないけど、なんとなくスザクにはそう思えなかった。

「背が高くて…たぶん俺よりも頭一つ分近く高くて、金髪。若い。同い年くらいだと思う」
「そんなのどこにでもいるだろう」
「サングラスで顔は隠れてたんだよ!…あーでもたぶん貴族?お坊ちゃまって服着てた」
「金髪の貴族か…」

該当する人物が多すぎて分からない。
それに、同い年くらいとするとそれが昔会った人なら当時より成長していて身長はもちろん、髪だって染めれば変わっている。
ルルーシュが思考の渦に溺れそうになっていたとき、注文したときと同じウエイターが二人の料理を持ってきた。

「あの、すみません。このブラインド下ろしてもいいですか?」

このようなスザクの感は外れたことがない。
並の軍人以上に鍛えられている五感も第六感も信じて損をしたことはない。
自分のその感覚に自信のあるスザクは許可をもらうと外から見えないようにブラインドを下ろした。





















俺スザクがどんなのか分からなくなってきた^p^


2008.11.22