まああれだ。
生徒会の仕事が遅くなって寮の夕食にありつけないということは何度も経験したことであり、別段珍しいことでもない。
夕食を食いっぱぐれるということはそれなりに遅くまで仕事をしているわけで、つまりは必然的に外に食べに行くということもできない。 門限とは悲しいものである。
とはいえ、別に困ることではない。むしろ諸手をあげて喜ぶことである。



――だってルルーシュの手料理はうますぎる!!










いらぬ首を突っ込むな










どこのホテルの料理ですか、と尋ねたくなるような見た目と申し分ない味。 残念なことに高級ホテルの食事なんて食べたことないけれどきっとルルーシュの作るのはそれに並ぶほどおいしいに決まってる。 だってあの会長もうなるくらいだ。

そんなわけで、遅くまで(会長の溜めこんでいた山のような)書類と格闘するのは苦だが、ルルーシュの食事を考えると自然とやる気はでるもんで。 今日も今日とて夕食を食いっぱぐれた俺たちは揃ってクラブハウスのテーブルを囲んでいた。





「…?」

何かいつもと違う。
そう思って首を傾げながら向かいのシャーリーを見ると彼女も同じく首を傾げいていて、目が合った。 でもって自分の隣にも視線を移すと会長もあれれ、と疑問の声を漏らしていて、シャーリーの隣に座るカレンは目をぱちぱちとさせている。
そうしてもう一度目の前に出された料理に目を移す。 並べられた料理もルルーシュが次々と運んでくる料理もどれも湯気をたて食欲を誘ういい匂いをさせているのだが。
ええとあれだ。ルルーシュのいつもの料理は繊細で芸術的な職人技だとすると、それに対してこれは――

「…男の料理?」

反対側から聞こえてきた声にそれだ!と頷いた。
そうだそれだ男の料理だ!
豪快だけど家庭的な温かさを感じるそれ。ルルーシュの印象には全く合わない。 (付け加えておくがこれは決してルルーシュが家庭的でないと言っているわけではない。やつは驚くほど家庭的だ。 ただそう、見た目とか性格とか、そういうイメージの問題だ)

「なんだお前たち。食べないのか?」

するとすぐにキッチンのほうからルルーシュがエプロンを外しながら現れた。 その顔は訝しげで、そのあとすぐにいらないなら食うな、と告げられてみんないっせいに首を横に振った。
いつもと違うとはいえ、腹が減っていることには変わりないし、なにより旨そうだ。
いただきますと言ってみんな食べ始めた。俺も一口食べて、おいしいけれどやっぱりいつもと違う味付けに首を捻る。
今日はルルーシュじゃなくて咲世子さんが作ってくれたのだろうか。いやでも彼女の料理もこんな味付けではなかったと思う。 ナナリーが作るなんてのは超過保護なルルーシュが絶対に許さないだろうからナナリーでないのは間違いないのだけれど。
でもまあそれでもおいしいのは変わりないのだから、と俺は空腹を満たすためにありがたく食事を平らげることに専念した。







いつもより気持ち会話少なめの食事を終え、他愛もない話をしているときだった。

「おいしかったか?」

食器を洗い終わったルルーシュが戻ってくるなりこう聞いてきたのだ。
その質問に面食らったのは俺を含む他全員。
だってルルーシュは今まで一度たりとも味についての感想を求めたことはなかったのだ。 完璧主義者のルルーシュが失敗した料理を他人に出すわけがない。 だから味についての感想を求めるまでもない(と思っているに違いないと俺は予想を立てている)。
そんなルルーシュが、だ。
どうして今日に限って――そう思って、今日は料理のスタイルが違っていたから新しい方向性への才能を確認したいのだろうかとの結論に行きついた。

「もっちろん!おいしかったわよ!」

いち早く会長が答えたことにより、俺たちも口々においしかったと告げる。
そうしたらルルーシュはそうか、と少しだけ微笑んだ。

「あいつも喜ぶな」
「あいつ?」
「ん?…ああ、言ってなかったか?」

めっずらしいルルーシュの微笑みに驚いていると(シャーリーなんて釘付けだ)、ルルーシュが気になる言葉をもらす。
思わず聞き返してしまった俺は、すぐにやめときゃよかったと後悔した。

「今日のごはん、作ったのはスザクなんだよ」
「ほんと?スザク君が作ってくれたの?」
「へえ、なんか意外。あの子、料理もできるのね」
「通りでルルのっぽくないなあって思ってたんだよね」

スザクが!なんてのは聞き返した時になんとなく想像がついてしまっていた。当たっていて頭を抱えたくなる。
確かにあんなおいしい料理をスザクが作ったのは意外だし驚くのもわかるができるならそれ以上の質問をやめてくれ、と必死に心の中で盛り上がっている女性陣に訴えた。
なんというかこれは常に被害を被ってる俺だからわかるのだろうか。あまり知りたくない事実を知らされそうだ。
特にシャーリーお前はやめとけって、と親切心で目で必死で訴えてるのだがどうやら気づきそうになかった。

「当然だ。俺はああいう料理は作れないからな」
「でもどうしてスザク君が?スザク君、今日も軍務だったよね?」

ああ一体何を聞いてくれてるんだシャーリー!それは聞いちゃいけない質問だぞ!
ちなみに今日も、とは昨日もスザクは軍務で休みだったからだ。

「昨日の夜あいつのせいで下準備ができなかったからな。怒ったら朝一番で準備をしてから仕事に行ったんだ」
「へえーそうなんだぁ……って、え?」

ほうらみろシャーリー言わんこっちゃない(言ってないけど)。ようやく気づいたか。
隣の会長を見ればニヤニヤと笑い、反対側のカレンは呆れ顔、少し離れたニーナはうっすらと頬を染め、そして目の前のシャーリーの顔はどんどん青白くなっていく。
俺はどんな顔してるのかなぁ、なんてぼんやりと思っていたら好奇心かそれとも違うという確信を得たいのか、「どうして朝スザク君がいたの?」と聞くシャーリーは勇者だと思う。 ルルーシュに恋心を抱く彼女はきっと後者の意味合いで訪ねたのだろうけど、答えなど火を見るより明らかだった。

「どうしてかって、あいつ昨日、泊まったからな」

真っ青になったかと思えば真っ赤になったシャーリーはきっと自分と同じことを思い出しているのだろう。

そういえばルルーシュ、今日はやけに気だるげでしきりに腰を気にしていたな、と。










そしてルルーシュは自分が昨夜何があったか間接的に暴露したことに気づいていない。




















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ほのぼのとしたのが書きたかったのに見事玉砕。
しかもスザク出てないし、なにこれ似非ギャグ?
なんかもう短いしこんな内容だし、なんかもうほんとごめんなさい。



2009.02.28