何も知らないというのはそれだけで罪だ。
そして何も知らさないのも、それと同等なのかもしれない。

知られたくなかった。だから今まで皇族だということを隠してきた。
それは自己保身のためでもあるし、ナナリーのためでもあるのだとそう思ってきた。
人の経歴なんか、よほどの有名人か探る本人によほどの権力がないと知ることは難しいだろう。
それが一個人だけではなくある程度の組織の協力あって経歴を隠ぺいしているのなら、それは尚更だ。

知られたく、なかったのだ。
俺が皇子であることも、もちろんゼロであることも、全て。


「なあ、ルルーシュの初恋って誰?」


だから悪意無くこう質問してくる友人に、当然俺は怒りを示すこともできないのだ。










消えたもの
すき とか あいしてる とか それすら ぜんぶ










リヴァルがそう言うとシャーリーがえ、と驚きの声をあげた。
ルルにも初恋ってあるんだ、なんて何気に失礼なことを言われたのを苦笑した。
どうしてこのタイミングでそんな話になるんだろう。
よりによって、あんなことになった後に。

「もちろん俺にも初恋はあるさ。」
「で!その相手ってやっぱりスザク?」
「違うよ。スザクと会う前に、一人女の子が…」

ユフィ。俺の初恋だった。
ナナリー以外に一番近くにいた女の子だったからなのかもしれない。今感じる恋とは違うのかもしれない。
馬鹿だった。幼かった。いくら母親が違うといえ、半分は血がつながっているのに。
けれど少なくても俺は、あの時は本気だったんだ。

「ルルーシュ!!」
「どうしたんだ、ユフィ」
「うふふ」
「なんだよ、ユフィ」
「私、ルルーシュとこうしているの、好き!」
「僕もだよ、ユフィ」

最初はリヴァルとシャーリーだけだったのに、会長とカレンとニーナもこっちを見ていた。
隣に座るスザクも逆隣にいるナナリーもじっとこっちを見ている。
どこか居心地悪かった。眼帯で隠しているはずの左目が気になって、顔をあげることはできなかった。

「へーなんか以外。ルルーシュってスザクだけだと思ってた。」
「そんなことないさ。」
「ねえ、それってどんな子?俺たち知ってる?」
「……ナナリーとスザクは、知ってるかな」
「あらあら!それって三角関係じゃなーい!いいのスザククン!」
「僕の知ってる子、なんだ」
「…ああ」

どうして俺はこんなにいろいろ喋っているのだろう。
知っているも何も、今の俺よりはるかにスザクの方が近かった。
お兄様もしかして、とナナリーが言った。
きっとナナリーには分かったのだろう。ナナリーもスザクも知っていて、スザクより先に知り合っているといえば、 思い当たるのは彼女しかいないのだろう。
ユフィが死んだと知って連日泣いたことで少し目の腫れているナナリーの目からまた、涙が流れた。
目線を合わせるようにしゃがみ込んで片手で涙を拭い、空いた手をナナリーの手に重ねる。
もう一度、ナナリーがお兄様、と言った。

「……昔、よく私と…あの方で、お兄様を取り合いしていましたよね。」
「そうだったね。」

「お兄様!私とユフィお姉様のどちらが好きですか?」
「私よね、ルルーシュ!」
「私です、ユフィお姉様!」
「ナナリーもユフィも好きだよ…」
「「どっちか選んでください!」」

「どっちの方が好きか聞いて…いつもお兄様を困らせてましたね。」
「…あの時はどう答えればいいのか本当に困っていたよ。」

辛いなら部屋に戻ってもいいんだよ、とナナリーだけに聞こえるように言うと、小さく首を横に振ったから手を握ったまま スザクの隣に戻る。
いかにも興味津津、といったようにリヴァルとシャーリーが身を乗り出している。
会長は気づいたのだろうか、少しバツの悪そうな顔をして乗り出していた身を引いた。

「ちょっとちょっとランペルージ君!君の心を射止めたその相手は誰?どんな子?」
「優しい子、だったよ」
「他には他には?」
「…少し無知で、だけどいつも一生懸命だった。いつも笑っていて間違っていることは違うと、はっきりと言う子だった。 …心が綺麗だった。」

それを俺が壊したんだ。
あんなにやさしい子だったのに、俺のせいであんなことをさせてしまった。
そして、最後にはその命も俺が奪ってしまって。

隣のスザクが少しずつ強張ってきた。
ああ、きっとスザクも相手が誰だか気づいたんだろう。
じりじりと焼けるような殺気を横から感じた。

「大丈夫かな?姉上にばれたら怒られるのは僕だよ、絶対」
「二人だけの秘密だから大丈夫よ。もちろん、ナナリーにもマリアンヌ様にも内緒よ!」

ナナリーや母上、コーネリア姉上から隠れて一回だけキスをした。
何の絵本だったか、それを持ってきたユフィがこんなの素敵よね、と言ったそれを真似て。
子供らしい触れるだけのキスだった。

「ファーストキスも、彼女だった…」
「えー!マジかよルルーシュー!そんなことスザクの前で言っちゃっていいわけ?」
「……別に、構わないさ」

目を瞑れば今でも彼女が浮かんでくる。
無邪気に笑うユフィ。全ての人の幸せを願う優しい顔をしたユフィ。
そして、似合わないマシンガンを持ち、彼女にとてもよく似合っていたドレスを血に汚して笑う、ユフィ。

すまない、ユフィ。謝っていいのか分からないけれど、謝って済む問題じゃないってわかっているけれど。
全ては愚かな俺の所為。
できることなら君の不名誉を全て解きたい。けれど、それも出来ない、結局無力な、俺。

「ルルーシュ、一緒に特区日本を成功させましょう。」
「ああ、ユフィ」

再びルルーシュとして君と手を取り合ったあの時、俺は本気だったんだ。
本当に君と成功させようと、思っていたんだ。
やっぱり少し無知で、けれども一生懸命で。心は、変わらず綺麗で。

ナナリーが握る手に少し、力をこめた。
ユフィのことを言うたびに、胸が締め付けられるけれど、もちろんそんなことリヴァルたちは知らないのだけれど。
言っていないのだから当たり前だ。
言わなかったのだから、全て俺の所為なのだから、傷つく資格すらないのだけれども。
これ以上話すのが辛かった。
横を見るのが怖かった。
何も言わないスザクが、その射殺されるような視線もまるでゼロであるときに向けられるような殺気にも。
いや、スザクはきっと俺がゼロだということに気づいているのだから、これは“ルルーシュ”に向けられた、殺気。

「リヴァルさん、もう…もうその話終わらせてくださいませんか?」
「え?どうしてだよナナリー。もしかして妬いてるとか?」
「そんなんじゃありません!…ただ、これ以上お兄様の辛そうな声を聞いていられないんです。」

違うんだ、違うんだナナリー。
俺には悲しむ権利はないんだ。心配してもらえる立場じゃないんだ。
ごめん、とリヴァルが言った。違うんだ、お前は何も悪くないんだよ。

スッと、スザクが立ち上がった。
今まで向けられたことのないような冷たい視線。
スザクにはもうギアスはかからないと分かっているけれど、やっぱり顔をあげることはできなかった。

「ルルーシュ、その子の名前は?」

今までにないようなスザクの雰囲気に生徒会室が息をのんだ。
いつもの穏やかなものじゃない。地を這うような、声。
ましてやそんな声が俺に向けられるなど、誰も思わなかったのだろう。

「スザクさん…っ」
「ごめんナナリー。でも、僕は聞きたいんだ。…いや、聞かなければならない」

促されるように立ち上がって、左手で眼帯を押さえ、スザクを見た。



「ユフィ、だよ」



その次の瞬間には地面が目の前にあった。
スザクに、思いっきり殴られていた。
きゃあ、という悲鳴が聞こえる。痛みを訴える頬が他人事のように感じた。

立ち上がる間もなくスザクが馬乗りに跨いで、胸倉を掴み上半身が浮く。
殴られたはずみで眼帯が外れそうになって、慌てて左手で押さえた。

「どうしてだよっ!!」
「………」
「何か言えよ、ルルーシュ!!」
「ちょ、スザク落ち着けって!そんなに怒るなよ…」

お前にも初恋ってあっただろ、と言うリヴァル。
違う。スザクはそんなことに怒っているのではない。
理由は、もちろん――

「リヴァルは黙ってて。俺はそんなことに怒ってるんじゃない。なあ、俺は理由を聞いてるんだ、ルルーシュ!!」
「……お前に言えることは、ない な。」
「馬鹿にしてるのか!?」

一人称が昔に戻っていた。
それくらい我を忘れているスザクを見て、ああ俺はいつもスザクを怒らせることしかできないみたいだ。
ゼロであっても、ルルーシュであっても、いつも。
ふと、昔を思い出した。初めてスザクと会ったときのことを。
あの時もこんな感じだった。
ただ違うのは、全ての原因は俺にあるということ。
スザクが本気で俺を憎んでいるという、こと。

「答えろルルーシュ。なぜユフィにあんなことをさせた。ユフィがあんなことするわけない。望むわけない! …息を引き取るとき、彼女は何も覚えていなかった。お前が何かしたんだろうっ!!」
「…そうだ。ユフィは自らの意思でやったのではない。全て、俺が命じた。」
「――貴様っ!!」

再び頬を殴られる。
けれど今度はスザクに胸倉を掴まれているので倒れることはなかった。

「ユフィは特区に全てをかけていたんだっ!名前も地位も全部捨てて、 日本人と、ルルーシュとナナリーのために全てを捨てたのにっ!!」
「…知っていた。それに、頼んでは、いない。」
「いい加減にしろよ!」

興奮しているのだろう、スザクはここがどこだか忘れているに違いない。
ユフィとニックネームで呼んでいても、ここまで言えば最近の一番のニュースだ、きっとみんな ユフィがユーフェミア皇女だと気づくだろう。
そして俺とナナリーが皇族であることも、俺がゼロであることも。

「…言えよ。言えよルルーシュ。ユフィにあんなことさせた理由を、言え。」
「お前に言うことは何もない。すべて言い訳にしかならないだろうから。」
「言い訳だろ?どうせお前はユフィを妬んでいたんだろう!」
「妬んでいないと言ったらそれは嘘になる。あいつは俺たちが失ったものを当たり前のように持っていたんだから。 同じ立場にあったはずのナナリーには何一つ残らなかったのに。俺たちが日陰にいるときに、 あいつは何も知らずに温室で育った。」
「それが理由か?」
「まさか。そんなわけないだろう。俺たちはあんな醜い温室に未練は残っていないのだから。 それにお前に言うことは何もないと、言っている。」

胸倉を掴まれたままの状態で睨み合い。
どんなにスザクに殴られようと構わない。左目の眼帯が取れなければ何をされても構わない。
横目でナナリーを見ると今にも泣きだしそうだった。きっとナナリーも気づいたんだろうな。
俺がゼロだということに。俺がクロヴィスとユフィを殺したということに。
生徒会室を見渡すと、カレンが顔を青くさせていた。
どうやら彼女も気づいたようだ。隠しナイフの刃を出そうとしたのを目で制した。
それから、スザクに目線を戻すと、当たり前だが以前のようなスザクの表情はなかった。

「言えよ、言ってくれよ、ルルーシュ。言い訳でも構わない。ユフィにあんなことさせた理由を、言ってくれよ…」
「言えない。それを言ってしまえば、俺は今までしてきたこと全てから逃げることになる。だからそれはできない。」
「ふざけるなよ…!」

「僕はユフィのことが好きだよ」
「私もよ、ルルーシュ」

「けれど、俺は本気でユーフェミアのことが、好きだった よ。」

好きだった。可愛らしい彼女に、初恋という心を抱いていた。
まっすぐにスザクを見ているとダン、と勢いよく床に叩きつけられて息がつまった。
完全に床に押し付けられる。抵抗できないように両腕を頭の上で縫いつけられると、はずみで眼帯が少しずれた。

「じゃあなんでユフィを殺したんだよっ!!」
「それが俺にできる唯一の償いだと思ったからだ。」
「そんな償いがあるか!」

殺したことに後悔はしていない。
そう告げるとずれた眼帯を一気に外された。

「やめろっ!!」
「…俺だって知ってるんだよ、ルルーシュ。お前のギアスのこと。この眼で何人に命令した?これでユフィに 日本人を殺すように命令したんだろっ!!ユフィは…お前のことを信じて一人で、一人で話し合いに行ったのに…」
「いいからそれを返せ!」
「そんなに返して欲しかったら命令すればいいじゃないか。」
「うるさい!」
「そんな眼なんか、なくなってしまえばいいんだ!!」

スザクが床に落ちていた鋏を手に取った。
一気に左目に向かって勢いよく振り下ろされてくるそれは、潰されると思った寸前で止まった。
頬に何か冷たいものが落ちてきて、なんだろうと見上げるとそれはスザクの目から流れ出たものだった。

「……俺はどうすればいいんだよ、ルルーシュ」

今日初めて聞いた、弱弱しい声。
顔の横に鋏が落ちる。それとほぼ同時に抱きしめられた。

「俺を憎め。殺したいと思うほど、憎めばいいさ。そしてまた会う戦場で俺の命を狙えばいい、それだけだ。」
「憎んでるよ…今すぐこのまま殺してやりたいくらい憎んでる。でも、同じくらい愛してるんだ…っ!!」
「……スザ、ク」

いつのまにか解放されていた両手をスザクの背に回すと、さらに腕に力を込められた。

「でも憎い。こんなに近くにいたのに、何度も会ったのに、ユフィが死ぬまでゼロが君だと気づかなかった 自分が一番、憎い…」
「当たり前だ。気づかれないようにしていたんだから。…その怒りを、憎しみを全て俺に向けるんだ、スザク。」
「できるならっ、そうしたいよ…。けれど、やっぱり君を愛してる、んだ」
「俺も、お前を愛してるよ、スザク。」

顔をあげたスザクの手が頬を撫でる。
それがそのまま赤く光る左目へと覆いかぶさった。

「…これが、この眼がいけなかったのかな?」

軽く眼を圧迫された。
このまま、スザクの力だったら潰れるかもしれないと、それでもいいと思った。
けれど悪いのはギアスの力ではない。それに飲まれた俺自身と、

「俺の中に流れる、ブリタニア皇族の血が、いけなかったんだよ」

その声は部屋中に響いて、それはやけに見っともない声で。
そんなことはないよ、とスザクは否定しなかった。
そのことは悲しかった。けれど否定されなくて良かったと思う自分もいた。

眼帯に手を伸ばすけれど届かない。あと少し、というところでスザクによってそれはとられた。

「はい、これ。…殴ってごめんね」
「いいさ。俺たちはこれから……殺し合うんだから。」
「そう、だね」

スザクが俺の上から退いてから眼帯をはめなおす。
ずれていないようにしっかりと確認して立ち上がると、それと同時に殴られた箇所が痛み出した。

一応左手で眼帯を隠しみんなを見ると、そこには恐怖を顕にしたメンバーがいて。
それも当然だ。初恋の話をしていたのに、今まで共に学園で過ごしてきた男は実は人殺しであり 世間を騒がせたゼロであり皇族であるという話になったのだ。
後ろでドアが開く音がした。それが誰なのか、見なくても分かった。
C.C.、と呼ぶと小さなため息が聞こえた。

「お前は本当に馬鹿だな。」
「……そうだな。」

振り向くとガウェインを操縦するときの服を身にまとったC.C.。それを見て、スザクとカレンが固まった。
が、すぐにカレンが駆け出してきた。
ものすごい形相をして、片手には先ほどの隠しナイフを握りしめて。
一直線に俺に向かってくるその様子は、さながら紅蓮弐式で白兜に向かって行っているときのようであった。

「今の話は本当なの?」
「ああ。身内の死んだ話を冗談でするわけないだろう。…すべて、本当だ、カレン」
「じゃあっ…ゼロ、ルルーシュは今まで私たちを騙していたのですかっ!!」
「ゼロでいい。…私はお前たちと共に日本を作ろうと本気で思っていたさ。」
「じゃあなぜ、先ほどの話が本当ならユーフェミアに日本人を虐殺させたのです!」
「……その理由は話せないと、言っただろう?」
「それでは納得できない!!」

入口のほうまで歩く足を止め、振り返る。
一番奥にいたカレンはリヴァルたちが障害となりそれ以上進めないようだったが、カレンは明らかに戸惑っていた。

「カレン、今ならまだ引き返せる。私が信じられないのなら、離れてくれてかまわない。ユーフェミアのことを団員に伝えても …。私は独りでも、やってみせる。それでもお前たちが共に闘ってくれるというのなら、私は嬉しいんだがな。」

ぎゅ、とC.C.に抱きしめられた。
それが母上のようで、泣きそうだった。

「大丈夫だルルーシュ。私がお前と共にいる。お前を独りにさせない。」
「C.C.…」
「私だけは、お前のそばにいるよ、ルルーシュ」
「……待ってよ、ゼロ…ルルーシュ。そんな、私…。」

C.C.から離れて、生徒会室を出る。
すまない、ナナリー。こんな兄で、済まなかった。もう一緒にいてあげることは、できそうにない。

「ルルーシュ!」
「…どうした?」

不意にかけられた声に後ろを振り向いた。
そこには泣き崩れるナナリーの傍にスザクが立っていた。
ああ、やっぱりナナリーの騎士にはスザクになってほしい、と、そう身勝手な思いが再び湧き上がった。

「…僕、知ってるんだ。君のギアスが暴走しているということも。だから眼帯してるんだろ?」
「そうだ。俺には、もうどうすることもできない。」
「そっか。じゃあユフィのも…」
「それには答えない。…なあスザク、俺たちは友達か?」
「7年前からね。」

友達か尋ねると、スザクは笑ってこう言った。
状況は違うけれど、あの時の電話のときのようだった。

「じゃあ、頼みごとがある。親友として、最後の頼みだと、思ってくれ。」
「…何だい?」
「……ナナリーを、頼む。」
「…そんなの当たり前じゃないか。ナナリーは僕にとっても妹みたいな存在。わざわざ頼まれることじゃないよ。」
「そうか。」

そう微笑んだスザクは敵ではなく、幼馴染の顔で。
自分でもおかしいと思う。完全に敵対したやつに大切な妹を預けるなんて。
だけれども、それでもスザクにしかナナリーを任せれないと、そう思った。

「待ってくださいお兄様!」
「ナナリー?」
「私も連れて行ってください!お願いします!!」
「…スザクの言うことを聞くんだよ。身体には気をつけて。ナナリー、君は幸せになるんだよ。」
「お兄様…」

駄目なんだ。つれていけれない。
これが兄としてできる最後のことなんだと、分かってくれ、ナナリー。
室内に戻って涙を流すナナリーの目の前にしゃがみ込む。
いつだったか、ナナリーがしてくれたように彼女の頬にキスをした。

「もう一度考えるんだ、カレン。日本を解放させたら、次は世界各地のエリアになるだろう。もうこの地だけではすまない。 日本への愛国心で戦ってきたお前たちにとっては関係のない世界になるんだ。俺は、父上を殺すまで、終われないから。」
「……」
「覚悟がついたらこい。…いつもの場所で待っている。もちろん、来なくてもいいんだからな。」

そう言うと、ただじっと俺を見ているC.C.が苦笑した気がした。
隣に並ぶと、足もとに置いていたのか、ゼロの衣装が入ったケースを渡され、それを持って部屋から出る。



「君を殺して僕も死ぬよ、ルルーシュ」
「…それはできないよ」

寸前、スザクがそう言ったのが聞こえて、思わず立ち止まった。
それはとても小さい声だったから、きっと本人に言った自覚がなかったのかもしれない。
振り返ると俺が答えたことに驚いたように目を見開くスザクがいた。

「それはできない」
「…どうしてだよっ!!」

もう一度言う。今度はそれに食いつくように反応した。
できないだろう。あの命令がどの程度の範囲まで有効かは分からない。
だが少なくとも自殺は出来ないはずだ。殺されそうになっても発動し、逃げる道を選ぶのだから。

「俺はな、スザク。お前にだけはギアスをかけるつもりは…なかったんだ。」
「僕にギアスが……?」

思い当たりがないのだろう。
それはそうだ。前後の記憶が無くなるのだから。

「お前なんであの時助かったと思う?」
「…あの時?」
「お前が俺を拘束し、シュナイゼルの命令のままに死のうとした、あの時。」

恐らく分かったのだろう、スザクが目を見開いた。
先ほど俺の目を刺そうとしていた鋏を手に取り、そのまま勢いよく自分の首に向けて振り下ろす。
けれどそれは触れることなく直前で止まった。
力の入っている手がガタガタと震えている。スザクの目は赤く、光っていた。
それもしばらくしてカタリ、と音を立てて床に落ちた。



「『生きろ』」



あの時と同じように言ってC.C.と生徒会室を出た。
酷いなルルーシュ、とドアが閉まる直前に声が聞こえた。



「大好きよ、ルルーシュ」

好きだったよ、ユフィ。
愛しているよ、スザク。
だからこそ俺はもう、もどれないのだ。昔にも平和な学園生活にも、誰かと愛し合う状況にも。


制御のできなくなった左目から流れた涙が頬を濡らした。




















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こんなに長くなる予定じゃなかったのに。書いた本人が一番びっくりしてます。
なんていうか、支離滅裂。後半のスザルルは予定になかったというミラクル。
そして書き終わってからシャーリーがルルーシュの記憶を忘れてないことに気づきました。…直しませんけどね!
スザクがルルーシュを殴るシーンとか、そういう動きの激しいシーンの描写ができるようになりたいです…!
それにしても皇族バレとかゼロバレとかいろんなのを詰め込み過ぎですね、これ。
かなり纏まりのない話ですがそれなりに気に入ってたり。


2007.04.12