何物にも代えられないものがあるのだと、二人とも言葉に出さずとも感じていたのだ。
さらさらとルルーシュの髪を撫でる風を遮断するように、スザクは教室の窓を閉めた。
別に寒かったとかルルーシュが鬱陶しがっていたとか、そういう理由はない。
ただ、なんとなく、髪でルルーシュの顔が隠れるのが、スザクは嫌だったのかもしれない。
窓側を陣取った二人は、温かな日差しに程よく身体を温められながら、昼食を摂っていた。
微笑みながら食べる二人に、周りは自然と近付くことはせず、ああ、あいつら今日も幸せそうだな、と思っていた。
「ついてるよ」
「ん」
食べ終わった、ルルーシュは弁当箱を、スザクは売店の袋をそれぞれのカバンの中にいれる。
そしてまた向かい合って、スザクは手を伸ばしてルルーシュの口元についていたドレッシングを指で拭った。
「ありがと」
「どういたしまして」
にこりとルルーシュが微笑んで、それにつられるようにスザクも微笑んだ。
別にスザクのことが嫌いになったのだとか他に好きな人ができたのだとか、そんな理由ではないと、
後にルルーシュは友人、リヴァルに言っていた。
同じようにスザクも、決してルルーシュのことが嫌いになったのではいのだと、リヴァルに言っていた。
「好きな人?」
だからリヴァルは訳が分からなくなって、同じように理解できなかったシャーリーと二手に分かれて問いただした。
「スザクだ」
「ルルーシュだよ」
二人はもっと訳が分からなくなって、さらに問いただした。
「じゃあ何で別れたんだよ?」
「じゃあどうして別れたの?」
そうするとルルーシュもスザクも、困ったように微笑んで、そして、こう言ったのだ。
「どうしようもないくらい、大切なものができたんだ」
それは見たこともない、寂しいような愛おしむような、そんな顔だった。
「ね、ルルーシュ」
「なんだ」
「好きだよ」
「そうか」
「ルルーシュは?」
「俺もだ。俺も、スザクが好きだよ」
「うん。」
「でもな、スザク」
「うん、僕もだ、ルルーシュ」
スザクには軍に入って数年、はじめてどうしようもなく大切なひとができた。
自分を認めてくれた桃色の皇女。そして自分の信じた信念。
そしてスザクは決めたのだ。心優しき、そして自分と夢を同じとする彼女を守ると。
ルルーシュにはずっと、大切な人がいた。最愛にしてたったひとりの血を同じとする妹。
ずっと1人だった枠のなかに枢木スザクという人間が加わった。
けれど、その妹が体調を崩した時に、やっぱりルルーシュは思ったのだった。
俺にとって何よりも優先しそして生きている理由であるほど大切なのは、彼女だけなのだと。
ふざけて走り回っていた男子生徒の一人がルルーシュにぶつかりそうになったのを、
スザクは直前で自分の左手でその男子生徒の背をポンと押した。
その生徒はルルーシュに謝ってスザクに礼を言い、また走り始める。
全く気付いておらず驚いているルルーシュを見て、スザクはあははと笑った。
「うるさい」
「だってルルーシュ、すっごくびっくりした顔してる」
「普通気付かないだろ。自分の背中に誰かぶつかりそうだなんて」
「僕は気づいたよ」
「お前は視界に入っていたからだろ」
「うーんたぶんルルーシュと逆でも気付いたと思うよ」
「俺はお前とは違うんだよ」
「あはは」
窓の外は晴れ。ところどころに浮かぶ雲。温かな日差し。
「ね、ルルーシュ」
「ああ」
「好きだよ」
「うん。…な、スザク」
「ん?」
「愛してるよ」
「僕も、愛してる」
でもな。
でもさ。
「別れようか」
昼食後、弁当を食べ終わった男子が暴れ始め、女子が世間話に花を咲かせ始めた、そんななんら変わらないいつもの昼休み。
周りから見た様子ではいつもと変わった様子のないスザクとルルーシュが別れ話をしていたなどだれも思わないほど。
まるで眠気を誘うかのような穏やかさで、二人は世界をかけた決別を、したのだった。
全力で恋をした
俺たちは、僕たちは、彼と別れました。
けれどそれでもまだ、愛しているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
うちのサイトには別れ話がないなと思い書いてみた。
…どうしよう楽しかった!
ちなみにスザクはユフィのことが恋愛対象として好きなわけではありません。
ルルーシュもまた然り。
2008.04.12