「ね、ルルーシュ、」
「あのさ、」
「僕と、」
「ふたりで、」
「いっしょに、」


それは甘美で蠱惑的でこの閉塞された世界に生きる俺にはどうしようもなく魅力的だった。
子どもでしかない彼の考えと俺自身は、手を差し伸べることを美徳としその手を拒むことを知らなかったのだ。


「とおくににげて、ふたりでいきようよ」








自分たちはどうしようもなく愚かだった。
俺とスザクの関係は、皇子とその騎士というなにも難しいものではなかった。
皇族という存在として生まれおちた自分にとって騎士とは、もしかすると父親よりも母親よりも兄弟よりも身近な存在だった。 騎士とはその主に忠誠を誓い剣となり盾となりその命を主である皇族に捧げるとともに、 その主の命を預かる誰よりも密接で血の繋がりなどなくとも最も近い人間だと俺は思っている。 主は騎士を信頼しその命を預け騎士は主に生涯忠誠を誓いその命を捧げる。
聞いたことはないがスザクもそう思っているようだった。 彼から与えられる忠誠心は心地よく預けた命は幾度となく救われてきた。
他のどんな皇族の騎士よりもそれこそ皇帝の騎士よりもずっとスザクのほうが優れていると、 そして自分も主として他の誰よりも騎士を信頼していると自信を持って言える。
ただ、そこに入り込んでしまった信頼でも忠誠でもない感情が、きっといけなかったのだとぼんやりと思った。
スザクと出会ったのは確か7つの時だった。占領した国からの人質として牢屋同然の状況にいたスザクを連れ出したのは、 紛れもなく自分だった。連れ出した理由なんて覚えてなんかいない。 ただ庶民出の皇妃の子という皇宮内でも異端だった自分と蔑みの対象でしかなかったスザク、 きっとそういう可笑しな境遇で繋がれた糸を掴んでしまったのだろう。
騎士証を与えたのもいつか覚えていない。 お互いにお互いしかいない状況でスザクを騎士にするのなんてきっと決まり切ったことだったのだ、俺の中では。
純粋な幼馴染という期間を経てそれと並行しながら主従という汚れない関係になって数年して思春期というものが訪れた。 皇室という閉塞された世界で知っているのは本物の世界に比べてちっぽけなものだった、 そんな世界の中で関わりのある人間関係はとても僅かでその中でも唯一無二の幼馴染で信頼と忠誠で結ばれた、 そんな俺たちはそのまま歪んだ思春期を迎えるのは自然だったのかもしれない。 若さ故かそれとも愚か故か、反社会的で非道徳的という甘美な誘惑を断る術など知らなかった、 というより知っていて受け入れることを快楽に感じた。
体を重ねることを何よりも神聖な行いにしか思わなかったあの頃。
スザクの腕の中で迎える朝が何よりも幸せだと信じて疑わなかった。
抜け出すタイミングを知らずずるずると泥沼に嵌っていくのを、 幼馴染でも主人と騎士でもない誰も知らないというこの微温湯のように心地よい秘め事を、 二人は何よりも確かな関係だと思い込んでいた。

そして幼馴染という関係だけでは足りず主従となり、 けれどそれでも足りず体を重ねた自分たちがそれだけで終わるはずがないことくらい当然だったのだと、 夜中自室のベランダに立つ己の騎士から差し出された手を掴んだときにそう思った。



「僕と、ここから逃げようよ」

きっとこれは歪んだ思春期の延長線上にある、そんな言葉だったのだ。
幼い子供たちが大人に内緒で秘密基地を作るような、そんな感じに違いない。 内緒、というのは幼い子供にはお菓子よりも大好きなテレビよりも甘い誘惑なのだ。
夜中ドアからではなくベランダから侵入したと言ってもいい状況で訪れたスザクは数少ない私服を着ていた。
どうしたものだと思っていると差し出されたのは騎士服と騎士証。
そしてその言葉だった。
愚かだと分かっていながら掴んだスザクの手。力いっぱい抱きしめられた彼の腕の中で抱き返す自分。
僕には君しかいないんだ、絶対に離さない、離してやらない
耳元で熱っぽく告げられてそしてその声が今までに聞いたスザクのどの声よりも真剣そのものだったから、 じんわりと涙が浮かんできてそれを隠すようにスザクの胸に顔を埋めた。
床に散らばった見慣れた彼の騎士服と騎士証が月明かりに光っていた、そんな日にスザクと世界を見ようと逃げた。

「きつくない?」
「大丈夫だ」

そうと決まればすぐに実行に移した。
大きくはないバッグに数少ない私服と着替えを詰め込み、 金など持っていなかったから簡単に換金できて金になりそうな物を適当に掴み入れた。
ベッドの上に自分の皇族服とその上に皇族の証と携帯とを置いた、というよりそれ以外には何も持っていなかった。

警備をすり抜けるのなんて自分たちには簡単すぎることだった。
何よりその夜の警備担当は自分だったから、何時に交代で誰がいつどの場所にいるなんて分かり切っていたし、 そして止めようとする警備担当の軍人なんてスザクにかかれば障害ですらなかった。
間違っていることだと分かっていたけれど俺もスザクも、高揚感を隠せずにいた。

抜け出してからはひたすら走った。
愛馬に乗るという手もあったが、どうせ最後まで連れて行けないからそれは止めた。 途中でどこかにつないで誰かに見つけてもらうまで愛馬を放置しておくのは嫌だったし何より、 この逃亡はふたりだけの力で成してみたかった。本心は後者の方が大きかった、そんな理由だった。
馬鹿みたいに体力のあるスザクは俺の手を引きながら何度も大丈夫か大丈夫かと問う。 正直執務ばかりで運動なんてここ数年していなかった自分の身体は疾うに悲鳴を上げていたが、 それでもスザクとの世界を思いひたすらに走った。 スザクはそれを分かっていたのだろう、問いはするが走るのを止めなかった。 ただ俺の分の荷物を持ってくれて、スザクの左手はずっと俺の右手を握って決して離さなかった。
行先などない。
ただ人目につきにくそうな道を選んで走った。

どれくらい走ったのだろう。
途中で数回休憩をしたが、ほとんど休むことはなかった。人間その気になればなんでもできるんだと実感した。
どこかに二人で生きれる世界はないかと目指し向かっていた方角の空が薄っすらと明るくなってきた、 そんな時に小さな町についた。朝日に向かって走ってたなんて、どこの青春ドラマだろうと笑った。 自分たちの逃避は、そんな可愛らしいものでもなんでもないというのに。
スザクが横から青春ドラマは朝日じゃなくて夕日に向かって走るんだよ、と言って笑った。
それもそうだなと思ったが、俺は夕日より朝日に向かって走る方がよっぽど未来がある気がすると思う。 だって沈みゆく太陽はその日の終わりなのだ。始まりである朝日の方が先がある。
そういうとスザクが僕もそう思う、と笑った。
あっという間に明るくなった朝日に照らされて、久しぶりにスザクの顔を見た気がした。
いつも子供っぽい顔で時折端正な顔をしているスザクの顔はいつもと違っていた。
なんていうんだろう。疲れと悲しみと期待と希望とその他たくさんの感情が入り混じっていた。 あんまり清々しい表情で俺はそう思った。
スザクは全身ぼろぼろだった。数少ない私服の所々は引っかけたように破れ泥に汚れ、 顔にも細かい傷や泥がたくさんあった。でもきっとそれはスザクだけじゃなくて自分も同じだろうと思う。
皇宮を抜け出してからずっと繋いでいた右手を離してスザクの頬の泥を擦って落とし、 驚いてこちらに顔を向けたスザクの唇にそのままキスをした。
触れるだけのそれ。
きょとんとしたスザクは君の顔泥だらけ、と笑って同じように泥を落としキスをしてきた。
顔が離れ目が合う。


「逃げちゃったね」
「逃げちゃったな」


スザクが笑った。俺も笑った。
でもスザクが泣いているような気がして、そして俺もどうしようもなく泣きそうだった。
今頃皇宮では俺たちがいなくなったことに気づいて混乱しているころだろう。 そういえば今日は確か大事な会議があった気がする。きっと延期だ。 確か先日俺が担当した軍事行動の結果報告とその他もろもろだった。 思い出してみればスザクの手を掴む直前まで資料の見直しをしていた。 いつも通りだった夜をいつも通り迎えるはずだった朝をスザクが俺が壊した。


「なに、考えてる?」
「きょう会議があったなって。今頃大混乱だろうなって」
「もどりたい?」
「まさか。おまえは?」
「僕もまさか、だよ」


笑おうと思ったら涙がこぼれた。
その涙がなんの涙かなんて分からない。ただ二人ともぐちゃぐちゃに泣いていた。
スザクの腕が伸びてきて俺の身体を抱きしめる。 汗と泥とスザクの匂いのする腕の中、やっぱり俺は彼の腕の中でしっかりと強く抱き返した。
俺にはお前しかいないんだ、絶対に離さない、離してやらない
スザクと同じ言葉を俺も言った。
スザクが笑った。
もっと遠くまで行こうか。
そうだな。
そうしてまた手を繋いで走った。未来は世界は輝いていると信じていた。




















世界を知りたくて、二人だけの世界を広げたくて逃げた世界には誘惑が多すぎて、 今までのあの世界がどれほど小さいものだったのかを実感した。

「君は顔が知られているから」

そう微笑んでスザクは働きに出た。自分とそして俺を養うために。
換金した金を頭金に借りたのはとてもじゃないが二人で暮らすような部屋ではなかった。 そして残ったお金で冷蔵庫と洗濯機と食料品だけを買った。
狭い部屋で必要最低限のものしかなくても、それでも窓から見える世界が酷く魅力的で、 この狭い部屋こそが自分たちの城なのだと思った。
俺が部屋から出ることはたったの一度もなかった。
それがスザクからの言いつけでもあったし、特にそれに不満を感じたこともなかった。
朝起きて朝食を作りスザクを玄関で見送り、それから掃除と洗濯をしてまた夕食を作ってスザクを迎える。 夜には節約のためだと狭い風呂に二人で入ってそれから溶けるような甘いセックスをする毎日。 新聞はもちろんテレビなんてなくて、それでも薄い壁の向こうから聞こえるテレビのニュース番組では 自分がいなくなったことを一度も報道していなかった。それもそうだ。皇族が逃げただなんて恥をさらすわけがない。
皇室にいたころより不便であった。でもずっと生きているという実感はあった。

それから少しして、スザクが変わっていった。
毎日同じ時間に帰宅していた彼の帰宅時間が少しずつ遅くなってきた。
俺が寝てから帰宅することもあった。知らない匂いを纏って帰ってくることもあった。 次の日に帰ってくることが増えたし、そしてなによりあの甘く溶けるようなセックスをしなくなった。
見送る相手のいない朝も食べられることのない夕食も気がつけば当たり前になっていた。

三日

スザクが連続して俺たちの部屋に帰ってこなかった日。
隣から聞こえるテレビの音も狭い部屋の窓から見える世界もなにも、俺の世界は広がっていないことに気づいた。
外に出て働くスザクは世界を知り世界を広げたのだと気付いた。
そしてスザクから好きと愛してると言われたことのないことに、俺自身も言ったことのないことに気付いた。
俺たちを繋いでいたのは狭い皇室という閉塞された世界での皇子とその騎士という関係だけで、 それらを捨てた自分たちにはなにも繋ぐ関係など残されていないと、 信頼と忠誠はその時に一緒に捨ててしまっていたことに気づいた。
あの頃から知っていたはずだった。この関係は歪んだ思春期の延長線上にありただお互いしか知らなかったからだと、 所詮、俺たちの関係は狭い世界でしかなかったのだと。
求めた世界を手に入れれば砂で作った城よりも簡単に崩れることくらい、知っていたはずだった。

四日目の夜明け前

見送る相手のいない朝を迎えるのが嫌で、この城に移り住んでから初めて外に出ようと思った。
少ない私服から寒さを凌げるようなものを選んでそしてコートを着た。
今が何月で何日なのか知らなかったけれど、昨日窓から見た外の世界は雪が降っていた。 世界はいま冬だということだけ知っていた。
靴をはくもの久し振りだった。
そして、障害物なしに空を見たのも久しぶりだった。
夜明け前で薄暗くそして紫色をしていた空に薄っすらと朝日が広がるのをみてスザクと逃げだしたあの最初の日を思い出した。 空はあの頃と変わっていないのに自分たちはすっかり変わってしまったようだ。 あの時は確かにこれからの二人の世界に夢や期待や希望を抱いていたというのに、 いま同じものを見てもそういうのは一切感じられなかった。 ただスザクと逃げたときの高揚感と同じくらいの絶望感を感じさせてくれた。
あの時俺は夕日に向かって走る青春ドラマを馬鹿にしたが、間違っていたのは俺のほうだったようだ。 朝日の方が先があるだなんて、今はそんなことこれっぽちも思わない。 沈みゆく夕日の方がよっぽど未来がある気がした。だって明日に繋がってる。

行くあてなどなかった。
そしてドアを閉めてから、部屋の鍵がかけられないことに気づいた。 どうせ俺は出ることがないのだし、と合鍵は作らなかったから持っていなかった。 けれど盗られるものなんて俺もスザクも何一つ持っていなかったから別にいいかと思いそのままにした。
どうせスザクは帰ってこない。
ギシギシと酷い音を立てる階段を下り、地面に足を付ける。
ただそれだけの行動でどうしようもなく疲労感を感じさせられて、自分の筋肉がどれだけ衰えているのかを実感した。
(それもそうか。ずっと、あの狭い部屋の中でしか、動いてなかったからな)
吐く息が白くなって、それで自分が生きていることを実感して、ちょっとだけ泣きそうになった。
知りたいと思った世界を知ることができなかった俺は一人残され、知りたいと思った世界を知ったスザクは俺から離れた。
これ以上ここにいる意味があるのだろうか。 だからと言って、今さら逃げ出した皇宮に戻るような恥さらしな真似はできなかったしそんなつもりもなかった。
そして初めて、アリエス宮に残してきた母と妹を思い出した。


これからどう生きよう。
部屋に戻るにしてもそこには誰もいないし、何より食糧も尽きかけていたことを思い出した。
これから俺も働いて世界を知ろう。
そう少しだけ思って、でもちょっと歩くだけでこんなにも疲れてしまうほど体の衰えた自分が働けるような仕事なんて ないだろうし、そうしてまで生きるという意味を見失った。

後悔なんて、していない。

あの世界から逃げたいと思っていたのは確かだったし、何よりスザクとあの部屋で過ごした日々は確かに幸せだった。
ただどうしようもなく自分たちは愚かだったのだ。
あの世界に生きて反社会的で非道徳的な行いをしていたからこその、俺たちの関係だった。
世間知らずの子どもの、秘密基地に憧れるそれと同じだった、ただそれだけだったのだ。
現実を知って、皮肉にも少し大人になった気がした。







目を開けると広がっているのは見慣れた部屋の天井だった。
アリエス宮の。

目を覚ますとそこにいたのは自分が副官として勤めていた第2皇子だった。
彼が言うには、どうやら俺はあのまま気を失ったらしい。
そこをたまたま通りかかった人たちが俺を見つけて病院に連れて行ってくれたのだった。 その人たちは、高校生で俺と同じ17歳の男女だったらしかった。

「君を見つけた女の子はね、君のファンなんだそうだよ」

シュナイゼルにそう告げられた。
そしてその中にミレイがいたことも知らされた。アッシュフォード家は後ろ盾だ。 きっと彼女には俺がいなくなったことを知らせていたのだろう。だからこんなにも早く皇室に戻ってきたのだ。 でなければ皇族の証を置いて行った自分がすぐ皇族だと分かる手段などなかっただろう。 けど、そういえば自分は宰相の副官としてよくメディアに顔を出していたことを思い出した。

「…おれ、は」

どうなるのだろう。
自分の役割を全うできなかった皇宮から逃げだした出来そこないの皇子。 実力主義のあの父親がこんな自分を見捨てるのなんて目に見えていた。 そうしたらこの狭い世界から出ることができるのだろう。あの時スザクと逃げたときのように。
ただ違うのはそれが一人でその先に何もないということくらいだった。
シュナイゼルが言った。君はまた私の副官として働いてもらうよ。
どうしてなんだろうと思った。けれどそれを聞く意味がない気がしてただ首を動かして肯定の意を示した。

「きょうは、何月何日ですか?」

部屋から出て行くシュナイゼルに尋ねた。 告げられた日にちは、スザクの手を掴んだ日から1ヶ月と少ししか経っていなかった。



久し振りに会った母と妹には散々怒られた。
いつも優しく微笑んでいた母は目に涙を溜めながら声を張り上げて俺の頬を叩き、そして抱きしめた。
泣かせないと大切にと思っていた妹はお兄様の馬鹿、と言って泣いた。
そんな二人は見たことがなかった。今更ながらに自分がどれだけ愚かだったのかを実感して、泣いた。

それから1週間ほど療養として休んだ。専属医は俺の身体を見て悲鳴を上げた。筋肉の衰えと栄養不足が原因だった。
自分では大したものではないと、いや筋肉の衰えは確かに感じていたが、そんなに騒ぐほどのものではないと思っていた。 けれど公務に復帰する日、およそ2ヶ月ぶりに着た皇族服が着られないくらいサイズが合っていなくて驚いた。 それを母と妹に告げるとまた彼女たちは泣いた。俺はとんでもない不孝者だ。

どうやら俺は公では病気で療養中ということになっていたようだ。国民はもちろん、皇族も知らなかった。 俺が逃げたのを知っているのは母と妹と第2皇子と俺と彼の直属の部下数人だけだった。 皇帝ですら知らなかったのだ。その辺の手まわしは全て第2皇子によるものだろう。 だから廃嫡されていないのだと分かったがそれを感謝すべきかどうかは分からなかった。 なら俺を見つけた高校生たちは、と思ったが彼らには地方で療養中に出歩き気を失ったのだと告げられていた。 ミレイを通して近いうちに礼を言いに行くことに決めた。
復帰会見として久しぶりにテレビカメラの前に立った。
ご心配をお掛けしました。心配してくださった皆さんのためにも、これから体調には気をつけます。
笑顔を貼り付けてお決まりのセリフを言う。
痩せこけた頬や体なんて一目瞭然だから疑う者なんていないだろう。
もしここで己の騎士と皇宮から逃げだしてました、なんて言ったらどうなるのだろうと思うと可笑しさがこみ上げた。 けれどそんな意味のないことをする理由などなかったからしなかった。だってもうスザクはいないのだから。


生放送。この放送をスザクはあの土地で見ているのだろうか。
あの部屋にはテレビがないから広がった世界で見つけた女の部屋でその腕に女を抱きながら、見ているのだろうか。
こうやってまた何事もなかったかのように皇族に戻った俺を見てあいつはどう思うかなんて分からない。 まだ主と騎士という関係だったときはスザクの考えていることが分かったが今となっては全く分からなかった。
馬鹿だな愚かだなと笑っているかもしれない。あの部屋から俺が出たことを怒っているかもしれない。 あの部屋に俺がいないことを初めて知ったのかもしれない。 どうせならいっそ、無関係だとそう思ってくれたほうがいいと思った。

スザクを責める気なんてこれっぽっちもない。
だってスザクの手を掴んだのは紛れもなく自分自身でそれを払うのだって出来たのだ。
遠くに逃げて二人で生きようという約束は果たされなかった。だが世界を知りに行こうという約束でもあったのだ。 二人で逃げた結果スザクは世界を知って俺は知れなかった、ただそれだけの違い。 スザクを責める要素なんて少しもないのだ。

(そういえば、少しだけ後悔していることが、ある)

テレビカメラに向かって、そんなつもり無かったのに少し微笑んで手を振った。
朝食を作ってスザクを見送るのも掃除をして洗濯をして夕食を作るのも楽しかった。 けれど俺に一番合っているのはそんなことではなかったようだと、無意識のうちに手を振り微笑んだいま気付いた。

(もし、もし一度でもスザクに)

生放送も終わりテレビカメラの電源が落とされた。そしてそれからすぐ第2皇子が傍まで来てまだふらつく体を支えてくれた。 そんなの第2皇子のやることじゃないのに、でもこんな自分でも大切にされていることが分かった。

(好きだと愛していると伝えていたら何かが変わっていただろうか。)

そんな愚かなことを考えるのはもう止めることにした。



さようならスザク。
体を重ねて二人で手を取って一晩中逃げたのもきっと俺もお前も歪んだ思春期の甘い誘惑からの行動だったのだ。 あと2,3年もしたらそうやって笑う日が来る。

何度もそう自分に言い聞かせていた自分はまだ、 閉塞された世界から抜け出せていないのだと気付いているのに気付かないふりをした。




















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騎士皇子第一部ルルーシュ視点(全三部作予定)
自分の気持ちにも行動にも理由を付けたがり探すけれどはっきりと分からない、 自分をちゃんと掴めてなくてどこか悲観的で客観的なルルーシュ。

第二部スザク視点までは書こうと思ってますが三部は気力と根性が続けば書きたいなあと。
このまま終わらせてもいい気もする。でもどうせなら幸せにしたい気もするんですがなんせ先が見えない(笑)
ひたすら一人の視点で感情を織り交ぜた話は初めて書いた気がします。難しかったけど凄く楽しかった。



2008.06.14