「わたし、騎士をもつことにしたの」

それは今から数か月前のこと。
クロヴィスお兄様に代わりお姉様がエリア11の総督になることになり、 お姉様の計らいで私もエリア11の副総督に就任することになった。
副総督としての仕事は分からないことばかりで大変で疲れるけれど、 それでも以前は電話でしか話せなかったルルーシュやナナリーとも頻繁に会えるようになって、私は幸せだった。
そんなとき、彼と出会った。

まっすぐ目を見て告げると、兄、ルルーシュは目を開きカチャリと音を立てて紅茶のカップを置いた。





今日も髪型を変えメガネをかけて変装して、ルルーシュとナナリーのいる学校へと遊びに行く。
いや、遊びに行ったというのは半分正解で半分嘘。
今日はルルーシュにどうしても話したい、大切な話があった。
変装していると言ってもメディアへの露出が多い私の顔は多く知られているし、 私がここにいることが知られたら騒ぎになることは分かっている。
それになぜここに来たのか、ということになると皇族だと隠しているルルーシュ達のことがばれてしまうかもしれない。
だから事前にルルーシュに人目に付きにくいルートと時間を教えてもらい、彼らの住むクラブハウスへと足を進めた。
ああ、今でも鮮明に思い出せる。
私は今日と同じようにルルーシュたちのところへ遊びに行く時に、彼と会った。
優しい彼。強い彼。こんなにも心を揺さぶる人なんて今までいなかった。

こんにちは、とルルーシュに挨拶をすると、ルルーシュも微笑んで私を迎えてくれた。
本当は今の時間は授業中らしかった。
けれどルルーシュと二人でゆっくりと話がしたくて――ナナリーにも居てほしくなくて、無理やりこの時間をお願いした。
学生服ではなく私服を着ているルルーシュは私をいつものリビングに通してくれると、ちょっと待ってろと奥へ行った。
ふと、自分の肩の力が抜けるのが分かった。
どうやら私は緊張していたみたいだ。慣れ、というのもあるけれどカメラの前でもこんなに緊張したことなんてないのに。
少し大きめに息をつく。奥からルルーシュが紅茶と可愛らしいケーキを持ってきてくれた。

「それで、どうしたんだい、大切な話って」

前に紅茶とケーキを出してくれて、ルルーシュは少し苦笑しながら言った。
ごめんなさい、と言うと構わないんだよとルルーシュはまた笑う。
ルルーシュのことは好き。数多い皇族の中でもコーネリアお姉様を除くと恐らく一番くらいに親しい彼。
大好きだしそして尊敬もしている。
きっとルルーシュも私のことを好きなんだと思う。じゃないと彼はこうして私と会ってくれないだろうから。
それなのに私は今からきっと彼を傷つけることを、そして彼に嫌われるかもしれないことを言おうとしている。
ルルーシュが紅茶を手に持った。
それを一口飲んで口を離したところで、私は言った。

「わたし、騎士を持つことにしたの」





「どうしたの?」

初めてクラブハウスにお忍びで来たとき、情けなくも道に迷った。
この時はまだエリア11に来たばかりで副総督就任の発表前だった。
だから人に顔を知られていることはなかったのだけれどもルルーシュが念のため、 と人の少ない時間を狙ったために学生は通らない。
どうしよう電話しようかしら、と戸惑っているところに彼が現れたのだ。

「ここの生徒…じゃないよね、きみ」
「ええ。でも私クラブハウスに用があるんです。大丈夫、ちゃんと許可もありますわ」

警備が厳しいここで門を通れるように事前にルルーシュから渡されていたパスを見せる。
それを見た彼はそうなんだ、と微笑んた。

「僕も今からクラブハウスに行くところなんだ。よかったら一緒に行きませんか?」





「騎士、か?」
「ええ。私も副総督になりましたし、お姉様がそろそろ騎士をと」
「そうか、副総督になると騎士を持つ権利があるしな」

おめでとう、とルルーシュは微笑んでくれた。
けれどソーサーにカップを置いたルルーシュの手が震えている。 カチカチと音を鳴らしていて、静かなクラブハウス内に響いた。
私はまだ誰を騎士としたのか言っていない。けれどルルーシュは分かったのだろう。
少し動揺しているルルーシュはそれを表わさないようにと必死に繕っている感じがした。
彼のそんな姿を見たことがない私は、あの人がルルーシュにとってどれだけ大切な人でそして思っているのかを感じた。
罪悪感はある。けれど、私もルルーシュに負けないくらい誰にも負けないくらい、彼を愛しているの。

「それで、可愛い可愛いユーフェミアの騎士になるのは、誰だい?」

少し震えた声で、それでもルルーシュは必死に『兄』を繕って、私に聞いた。
こくりと唾を飲み込む。
少しだけ息を止めて、また少しだけ深く息を吸った。





「…どうして二人が一緒なんだ?」
「ごめんなさいルルーシュ。私迷ってしまって…そこで困っているところに、彼がたまたま」
「ああ、ルルーシュのお客さんだったんだ。パスも持ってたし大丈夫かなと思って」
「いや、ありがとう。こら、ユーフェミア。あれほど確認しただろう」
「ごめんなさい。でもこの方のおかげで無事に来れたんだし、今日は見逃して?」

連れて行ってもらった場所は最初に聞いていた特徴と一致していた。
ここだよ、と言われ彼がチャイムを鳴らす。そこから出てきたルルーシュは私たちを見て呆然としていた。
ごめんなさいと謝るとすぐに笑ってくれて。
そしてルルーシュは私を連れてきてくれた人と親しげに話しだした。
彼に対するルルーシュの表情は驚くくらい柔らかかった。
私たち兄弟にでさえどこか壁を作っているような感じのあるルルーシュがこんなに気を許している。
彼は誰なんだろう。
それが私が彼に興味を持ったきっかけだった。

「そういえばお前、今日軍じゃなかったのか?」
「もう終ったんだ。だから生徒会に顔を出して君に会いにきたんだけど、また来るね」
「…軍人さんなんですか?」
「ああ、そうか知らないよな。でもユフィ、お前と顔を合わせる機会はないと思うぞ」
「そうなの?でも機会があるかもしれませんわ」
「え、それどういうこと」
「ああ、彼女は俺の妹だ」
「初めまして、ユーフェミアです」

えええ!と彼は驚きに声を上げ、それにルルーシュと二人で顔を見合せて笑う。
あなたの名前は?と聞くと、驚いていた彼はそれでも顔全体に笑顔を添えて教えてくれた。





「枢木スザクです」

心を落ち着かせたあと、もう一度ルルーシュの目をまっすぐ見て告げた。
ルルーシュがスザクのことを好きだということにはスザクと出会ってからしばらくして気付いた。
だってスザクを見るルルーシュの目が違うから。
ナナリーに向けるそれとは明らかに違い、ナナリーに向けるそれとは別の温かさがあった。
ルルーシュは隠しているみたいだけど私はすぐに分かった。
そして恐らくスザクもきっと。

「…そ、うか。スザクはいいやつだからな。きっと、お前の力になってくれるよ」

ルルーシュは笑ってそう言ってくれた。
その笑顔はとても苦しそうでけれどそれを表わさないようにとしていて。

「ありがとう、ルルーシュ」

ルルーシュのことは大好きだし尊敬もしている。
けどそんなルルーシュを出し抜くような真似をしてでも、それくらいスザクのことを本気で思っているの。
私は胸がちくりと痛んだ。それに気付かないふりをしてルルーシュに微笑み返した。




















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主要は一応これで揃ったかな。
あとなんかユフィの性格が悪いと思われる方もいるかもしれませんが別にそんなつもりはありません。
好きな人にライバルがいるとこんなもんだと思うんですがどうでしょう。
ていうかルルーシュ迎えに行けって感じですね(笑)
ちなみに時系列でいうと『定義』よりもちょっと前です。



2008.07.26