・ゼロはいません
・皇族としての籍は残ってはいるがその気はない
・仲は悪くないし嫌ってないけどどこか壁がある皇族兄弟たちが中心
・とりあえず設定を真剣に考えた方が負けな一貫して明るくない話
・だってみんな片思い!





欲しいものはあるか、と尋ねられて言葉につまった。
そして少しだけ動揺して、そうしたら電話の向こうから笑い声が聞こえてきて、頭に血が上りそうになった。
それを少し落ち着けることに成功して、なんでもなかったように、お金、と告げる。
するとまた電話越しに笑い声が聞こえて、

「うそつき」

シュナイゼルはそう言った。




「どうして俺が嘘付きになるんです?」
「だって、嘘をついたじゃないか」

どちらかと言うと苦手な方に分類されるこの兄は、いつも突然電話してくる。
それこそ時差を考えているのか、という時間だったり学校にいるときだったり。
出たくない、と思いつつもどうしても出てしまうのはやはり心の中ではこの兄を嫌っていないからだと思う。
下らない話をだらだらとするときもあれば声が聞きたかったからと傍迷惑なときもある。
そして、今日のように、唐突に質問をしてくるときも。

「嘘なんてついてないですよ。できることならお金が欲しいですね。今月はちょっと出費が激しかったんで」

このタイプの電話が一番嫌いで、苦手だった。
兄弟の中でも突出しているこの兄には、何もかも全てが見抜かれているようで。
得意の話術も心理戦も、この兄に勝ったためしがない。
だから、苦手。

「そうか。なら私がお金を送ろうか。いくら必要だい?」
「本気にしないでくださいよ。それに、俺はあなたたちに頼るつもりはこれっぽっちもありませんから」
「つれないなあ。私たちは兄弟だろう」
「義理の、ですけどね」

今日の電話は休み時間だった。
教室の隅で壁によりかかりながら話す。
気がついたら手に触れていたカーテンを強く握りしめていて、皺になったそれを離して自分の制服の裾に変えた。
電話の向こうでまた義兄が笑った。
もうやめてくれないだろうか。
俺は、この人とこういう話をするのが嫌だ。
勝てない心理戦なんて
また兄がつれないなあ、と言った。

「それで、最初の質問にもどるけど」
「だからお金だって言って、」
「私はね、ルルーシュ、お前が欲しいよ」
「っ」

急に声のトーンが変わった。
心の奥深くまで浸みこんでくるようなこの声。
内側から抉られる。
一瞬のうちに全身に鳥肌がたった。

「それは、どう言う意味で?」
「愚問だな。いまさらそんなことを聞くのかい?」
「…お断りします。俺は、復帰する気なんて、少しもありませんから」
「おやおや、そちらの意味にとったのかい?…まあ、確かにお前を副官としてほしいとも思っているけれど」

また笑った。
もう、切りたい。こんな怖い電話、切って電源まで落として、半分に折って、そして、

「おいルルーシュ、もう授業始まるぜ!」

リヴァルの声にはっとして時計を見ると、もう開始まで1分ほどだった。
よかった。これで、この兄から解放される。
リヴァルに片手を上げることで礼をすると、その手が汗で酷く湿っていることに気づいた。

「あの、もうすぐ授業が始まるのでこれで、」
「そうか。それは残念だな」

振り絞った声はどこか震えていた。
反対に兄の声は楽しげだった。

「じゃあ切りますね」
「今日は枢木はいるのかい?」

ひゅ、と息が詰まった。
先ほどまでとはまた違うトーンで、兄が言う。
やっぱりまた、兄が笑った。

「…軍務、ですよ」
「そうか。お前も可哀そうだね」
「…何がです」
「ん?聞きたいのかい?もう自分で分かっているのに、それを他人の口から。それはお前自身の胸を抉るだけだよ」

爽やかな兄の声。
震える身体は動かない。
授業開始のチャイムが鳴った。

「……ねえルルーシュ」

分かっている。
この兄が、自分の向けている感情の種類など。

「本当に欲しいものは何一つ手に入らないと、そうは思わないかい?」
「私も、お前も」


『本当は枢木が欲しいのだろう?』


電話を切る直前に聞こえた声が耳から離れない。
頭の中でリフレインされて、シュナイゼルの声が耳に浸みこんだ。

(スザクが欲しい?まさか、あいつは物じゃないんだ。あいつは、大切な親友なんだ、だから、それで、)

反射的に床に投げつけた携帯が悲鳴を上げるようにまた鳴りだした。
ディスプレイには今度はここを治める姉の名前。

(だから、だから、あの人は苦手なんだ、俺を、全てを、抉っていく)

親友なんだ、と言い聞かせる自分の感情はシュナイゼルが自分に向けるそれと同じだということくらい疾うに気付いていた。
その感情から逃げて何が悪い。
俺はシュナイゼルのように、ストレートに表現することなんて、できないんだ。

遅れて入ってきた教師に席に着くように言われた。
それを携帯を拾って、気分が悪いので、と教室を出る。
クラブハウスに向かう途中、鳴り止んだ携帯を握りしめて、自分の胸を握った。

「すみません、姉上。どうかされましたか?」


『本当に欲しいものは何一つ手に入らないと、そうは思わないかい?』


そうですね、兄上。
俺もそう思います。


電話から聞こえてくるのはコーネリアのアルトなのに、先ほどのシュナイゼルの声が頭から離れなかった。


(だから、あの兄は苦手なんだ)


俺が手に入らない兄は幾度となく俺を抉る。
どん底までたたき落として、それから手に入れようと。
俺はあの人のものになんてならない。そしてスザクも俺のものにはならない。

『うそつき』

スザクが欲しいだなんて、そんなの、それこそ、いまさら、だった。




















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皇族話第一段
モットーはみんな片思いでぐだぐだ
地味に増えていくと思います。



2008.06.08