「ルルーシュなら出かけているぞ」
「出かけた?」
きょろきょろと辺りを見渡すスザクの姿を見たC.C.は少し放っておいたあと、
行ったり来たりを繰り返し徐々にイラつき始めているスザクを鬱陶しく思ったのかそう告げた。
C.C.はスザクに視線を向けることはしなかったがそれでも雰囲気だけでスザクが顔を歪めたであろうことを感じる。
ソファに座ったままピザを一枚手に取り二度は同じことは言わん、とスザクに言い放った。
C.C.の予想通り少し眉間に皺を寄せていたスザクは外へ出ようとしていた体を反転させた。
「こんな時に?」
「こんな時だからだろう」
「はあ?それで、君はルルーシュがどこに行ったのか知ってるのか?」
「知らない。だが検討ならつく」
どこだ、とスザクが苛立たしげにC.C.に問いかける。
C.C.はやっぱりスザクの方は見ないまま伸びて垂れたチーズを指に絡め取りながら言った。
「墓参り」
ルルーシュが帰ってきたのは日が暮れる頃だった。
どこか愁傷しているルルーシュの姿にスザクは昼間のC.C.との会話を思い出した。
そのまま自分に気付かずに行ってしまいそうなルルーシュに、スザクは思わず腕を掴んで引きとめた。
けれどスザク自身、どうして自分がそんなことをしたのか分からなかった。
言いたいことはある。けれどそれは別に明日でもいいかもしれない。
それに通常ではないルルーシュの様子に、今日はこのままそっとしておいた方がいいのかもしれない。
そんな気持ちを押しとどめてスザクは口を開いた。
「今日は黙ってどこへ行っていた?」
「…別に」
ルルーシュはスザクと目を合わせようとしなかった。
けれどスザクもわざわざそれを強制しようとは思わなかった。
だから後ろからルルーシュの腕を掴んだ格好のまま、話を続けた。
「言えよ。こんな時期に、それも一人で出て行ったりして。
シュナイゼルや黒の騎士団に見つかったら殺されかねないんだぞ」
「散歩に出ていただけだ。それともなんだ?俺には一人になる時間もないのか?」
「君はね!…まあ、いい、今回は。だけど次からは僕にも声をかけてくれ。君に何かあったら困る。
君と僕にはやらなくてはいけないことがあるだろ。それを終わらせるまで君に死んでもらったら困る」
「なんだ俺はそんなに信用がないのか?」
「襲われたって自分の身を守り切ることなんかできないだろ、君一人じゃ」
相変わらず悪態をつくルルーシュだが、スザクはそれに少し違和感を感じる。
けれどそれを指摘してもどうせさらに悪態をつくだけだ、と何も言わなかった。
ただ、いまルルーシュが何を思っていてそして何を思い約半日出掛けていたのだろうかと、それだけが気になった。
「手」
「え?」
「手、痛いんだが」
「え、あ、ああ、ごめん」
指摘されてそこで初めて自分が強く力を入れてルルーシュの腕を掴んでいたことに気づいた。
慌てて力を緩めると青白くなっていた手先が徐々に赤みを取り戻し始める。
掴んでいた場所はスザクの手の形にくっきりと痕が残ってしまった。
「シャーリーの?」
誰のだろうと考えた後、可能性のある人物の名をあげた。
彼はナナリーの死を認めたくない様子だったし、かといって皇帝や母親ではないだろう。
消えてしまった彼らに墓など存在しないし何よりあれだけ憎み嫌悪していたのだ。墓があっても墓参りなど行くはずもない。
ユフィかもしれないと一瞬思ったが、現実的にそれは不可能だと気づきすぐに除外した。
では、と出てきたのはルルーシュのことが好きだったシャーリー。イベントだったとはいえ彼らは付き合っていたのだし。
そう思ってスザクは彼女の名前を言ったのだがC.C.は違うだろうな、と首を振った。
「じゃあ誰の」
「あいつの兄弟」
「兄弟?」
やっぱりナナリー?そう疑問に思ったスザクのそれを感じ取ったように、C.C.はまたピザを一枚手にとって、
けれど今度はスザクの方を見て悲しげに微笑みながら言った。
「あいつの偽りの弟、だよ」
力を緩めただけでスザクはルルーシュの手を離せないでいた。
それに居心地の悪さを感じたルルーシュは一度溜息をついて、悪かったよ、と大げさに肩を竦ませた。
そして言葉を続けようとしたルルーシュを遮って、スザクはもう一度力を、今度は痕が残らない程度の力を込めて握りなおした。
「君はまだ死ぬべきじゃないんだ」
先ほどとは違い切なさを感じさせる声に一瞬きょとんとしたルルーシュだったが、
そのあとすぐにそうだなと不敵に笑った。
俺にはまだやることがあるからな、とそう言ったルルーシュにスザクは違うと声を張り上げた。
「…弟、というと」
「ロロだ」
スザクの言葉を引き継いでC.C.が言った。
ピザに視線を戻したC.C.にスザクがまた問いかける。
腑に落ちない、とでも言うような顔をしていて、それをちらりと横目で見たC.C.は苦笑した。
「ロロというと、ナナリーの代わりに弟になったルルーシュの監視役だった?」
「お前はそれ以外にロロという名前のルルーシュの弟を知っているのか?」
「いや…ただ、なんというか…うん」
「意外か?」
C.C.の言葉に適当な言葉を探していたスザクはこくりと頷く。
だろうな、とC.C.は苦笑交じりに笑いながら言った。
「正直僕は、ルルーシュはロロのことを嫌っていると思っていた。
彼の大切なナナリーの場所に入り込んだロロを許せるなんて思っていなかった」
「同感だ」
「じゃあなんで君はルルーシュがロロの墓参りに行っていると思ったんだ?」
「ロロが死んだときの話は知っているな?」
ああ、とスザクは頷いた。
それはルルーシュ本人から聞いた話だった。
裏切られた黒の騎士団とシュナイゼルに殺されそうになったときにロロがギアスを使って助けたのだと。
そしてギアスの使い過ぎでロロは命を落としてしまったのだと。
そう話したときのルルーシュの様子を思い返してみても、スザクはピンとこなかった。
淡々と抑揚もなく話すルルーシュの姿しか思い出せないスザクはそれが何か、とC.C.に問うた。
「その日の夜だ。ルルーシュがぽつりと零したんだ」
「何を?」
信じられるか?あのルルーシュがだぞ。
そう言ってC.C.はいつのまにか残り一口になっていたピザを口の中に放り込んで言った。
「『本当に大切なものは失ってから分かるんだと、俺は何回も後悔したのにまた繰り返してしまった』 と」
スザクの声に反応して体を向けたルルーシュはスザクの様子にぎょっとした。
ルルーシュの腕を掴んだまま俯き唇を噛みしめる。
それから顔をあげルルーシュとしっかりと視線を合わせたスザクが言った。
力を緩めたはずだったのに気がつけばまたルルーシュの手の先は青白くなりかけていた。
「君を守った、君が生きることを望んで死んだ人がいるからだよ、ルルーシュ」
そのスザクの言葉にルルーシュは大きく目を開き、そして穏やかな、けれど哀切の表情でそうだな、と言った。
ただそれだけだったのにスザクは昼間の会話は間違っていなかったのだということを知った。
「私はあまりあいつらと共にいることができなかったからそんなにロロのことを知っているわけじゃない」
だから確証があるわけではないんだが、と前置きをして、C.C.は言った。
「確かにあいつらは嘘でできた偽りの兄弟だった」
「血の繋がりなど微塵もない全くの他人でしかない」
「だがな、私は思うんだ」
「あいつらは確かに」
C.C.が言ったことをこのとき半信半疑だったスザクは、今ならはっきり肯定することができた。
彼らは確かに兄弟だった
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ロロ祭(というか追悼)第一弾です。
本当はスザクとC.C.から見たルルーシュとロロの関係を書こうと思ってたのに気付いたらなんか違ってた。
ロロはルルーシュを本当の兄だと慕ってたしルルーシュも最後にロロを本当の弟だったと思ったし。
それで事情を知ってる人たちから見ても本当の兄弟みたいに見られてたらいいなぁという思いがあったりします。
ルルーシュとロロの兄弟がだいすきです。
ちなみにSS板のときとタイトル変ってます。前「何が嘘で何が本当か分からなくなった夜」
2008.09.16