respect
先生、うちのクラスに異常な空間があります。
ブリタニア人しかいない学校にイレヴン、それも総督殺害の容疑者だった男と高嶺の花と称される生徒会副会長。
彼らがいれば教室だろうと廊下だろうと、それこそトイレであろうとその空間は異質と化してしまうのだ。
「いい加減にしろよ、スザク」
「え?なにが?」
(なんなんだよお前たち!なんでそんなに普通なわけ!?)
今の状況を説明しよう。
ルルーシュは今自分の席で分厚い本を読んでいる。これはいつものことだ。
だが問題は転校生、枢木スザク。
彼もルルーシュの席に座っている。
ああ、表現がいけなかったですね。
どうしてルルーシュもスザクも同じ席に座っているのかというと
「いい加減放せこの馬鹿が!」
そうです正確に言うとルルーシュは椅子には座っていません。
ルルーシュの椅子に座っているのはスザクです。
ルルーシュはそのスザクの上に座っています。
えーとこの状況は彼らが昼ごはんを食べ終えた直後からだから――そろそろ20分。
説明するもの嫌気がさすから端折ると、ルルーシュが椅子に座る直前にスザクがそこに座り
ルルーシュの腰に手を回して引き寄せるように座ったと、そういうこと。
確かに今ルルーシュは怒っていますが先ほど述べたようにその体勢になって20分。
今まで普通にしていた我らが副会長もなかなかです。
というか俺たちにしてみればスザクのその行動に怒っても今更です。今更としかいいようがないんです副会長。
本を閉じてスザクから降りようとしていますが、軍人の彼が相手じゃ仕方がありませんよね。
スザクはそんな抵抗を相手にせず未だルルーシュの髪を触ったり首に顔を埋めたりやりたい放題。
実際見てるこっちが耐えられません!
なんだよあのバカップル!
今日もクラス中の恨めしい視線(主に男)や黄色い悲鳴(主に女)を受けてもいちゃつく彼らを、俺はちょっと尊敬します。
2007.05.01
will
正直、僕はいつ死ぬかなんてわからない。
明日かもしれないし、今から呼び出されてそこで死ぬかもしれない。
普通の人よりも死と隣り合っているのだ。それも自分で選んだ道なのだけれども。
大切な人がいなかったから、前線で殺されようと部屋で飢え死のうとどうでもよかったんだ。
けれど、今は違う。
好きな人ができた。守りたい人と再会した。
思いを伝える前に死にたくなかったけれど、断られて親友という立場がさえもなくなったら、と思うと怖くて告げれなくて。
結局僕は何をしているんだろう。
らしくないな、と思う。
放課後の教室。
軍務が終って、もう授業には間に合わないと分かっていても生徒会に出るために急いで学校にきた。
けれども生徒会室になんとなく行く気がしなくなって教室に行った。
誰もいない、僕ひとり。
血のような夕日が眩しくて、僕はそこで手紙を書いた。
「…らしくないな。何してるんだろ、僕。」
書き上げたそれは2枚。
持ち上げてみると白いそれに夕日が染みて赤く染まった。
「本当に何してるんだ、お前」
「わ!ルルーシュ!!」
「なんだそれ?」
急に声が聞こえた。呆れたようなルルーシュの声。
どうして気付かなかったんだろう。そんなことに驚いてると手紙をとられた。
「…俺に?」
「わ、見ないで見ないで!!」
最初に「ルルーシュへ」なんて書かなければよかった。誰かへの手紙だとわかったらルルーシュは読まなかっただろうけど、
思いっきり名前を書いている。
ルルーシュがそれを返してくれるわけない。
「…なんだこの遺書まがいな手紙は」
「…うん」
読んでいる間の沈黙が怖かった。自分の気持ちも全て書いてしまっていた。
逃げ出そうとも思ったけどそれもできなかった。
「俺はこんな手紙をもらっても嬉しくない。」
「うん…」
「大体なんだ!?お前は死ぬつもりなのか?」
「……でもいつ死ぬかわからないから」
だから、と言うとぎゅっと抱きしめられた。
僕は座っていてルルーシュは立っているのだから、自然と僕の頭はちょうど彼の腕の高さと同じで、
そのまま彼の胸に押し付けられるようにきつく抱きしめられた。
「そんなの誰だってそうだろ。こんなの書いて…お前は死を素直に受け入れるのか?足掻いてみようと思わないのか?」
「だってさ…」
「それに、お前は俺を置いて死ぬつもりか?こんな遺書紛いな手紙で好きだと言われてみろ。残された俺はどうなる。
お前が死んでから両想いだと分かっても、どうしようもないじゃないか…」
「…へ?」
「だから!俺もお前が好きだって言ってるんだよ!」
今なんと言った?
慌ててルルーシュの腕の中から逃れて彼を見上げると、そこには夕日に負けないくらい真っ赤な顔をしたルルーシュ。
「もうこんな手紙、いらないだろ?」
「うん」
目の前で、僕のちっぽけな遺書は半分また半分とどんどん小さくなっていき。
小さくバラバラになったそれはルルーシュの手の中からひらひらと落ちていった。
血のように染まった紙の向こうから現れたのはルルーシュのやさしい笑顔。
僕は、涙が零れた。
2007.05.01
assure you
1期の17話あたり
「大丈夫だよ。僕が保障する。」
薄っすらと夜明けを告げる光がカーテンの隙間から射してきたころ。
ベッドの上、裸の身体。そして覆いかぶさるようにいるのは軍服を纏った恋人スザク。
ここは、スザクの部屋。
憎き白兜のパイロットがスザクだと分かり、どうしようもなく彼に触れたくなって、
トウキョウ租界に戻るとすぐに、いつ帰ってくるか分からないスザクの部屋の前で待ち続けていた。
疲れた顔をして帰ってきた彼は俺の姿を見るととても驚いていた。
悲しくて辛くて。とにかく忘れたくて彼に乱暴に抱いてくれるように頼んだ。
夜明け前に鳴り響いたスザクの携帯電話につい先ほど眠りについたばかりだというのに起こされ、
聞けば今から緊急にお呼びがかかったと言うではないか。
スザクに抱かれたことで少し和らいでいた不安が一気に押し寄せてきて、「俺は幸せにはなれないのだろうか」と、
気がついたらそう言っていた。
「君の幸せは僕が保障してみせるよ。」
今から軍に行くという恋人に、敵であるお前にそんなことを言われても一体どうしろと。
俺の幸せを壊したのは間違いなく軍務で、お前ではないか。
けれどゼロという秘密を抱えているのは俺も同じだから何も言えないけれど。
少なくても、“いま”の幸せを奪ったのは軍でスザクで。
スザクの顔が近づいてきたかと思うと触れるだけの優しいキスをされた。
「だから、僕と、結婚、して、ください」
真剣な顔と声。
僕が隣にいれば君は幸せだろ?僕は君から離れるつもりはないから。
にっこりと笑みを添えられて、どこからそんな自信が湧いてくるのか問いただしたいところだがそれは事実で。
情けなくて見っともないけれど、俺は、嬉しくて涙が流れた。
それはスザクがユーフェミアの騎士に任命されたというニュースが流れた日の早朝の出来事。
彼が俺の隣にいると誓いを立ててくれてから数時間後。
突然の知らせにまた、涙が流れた。
(うそつき おれの しあわせを ほしょうして くれた ばかり なの に)
元から道が分かれていたと気付いていたのに。
もう隣に彼がいないことくらい分かってたのに。
全ての感情を捨てることができたらよかったのに。
ああ、彼を諦められたら よかった。
2007.05.04