pillar
空調が調節された部屋。
柔らかな照明に造りの良い家具。
温かな食事に肌触り抜群のふかふかなベッド。
たぶん。
僕には、それが分からない。
土と埃のにおいがする土蔵。
朝昼は窓から入る薄い日光、夜には心許無い蝋燭。
質素な食事に硬い布団。
すぐにでも思い出せる。
あの頃は嫌だったのに。でも今はそれらのほうが、何倍も嬉しく思えてしまう。
いまは、温かいはずなのに、何も感じない。
(アッシュフォード家は優しい。こんなにも手厚く保護してくれて。
皇子でも皇女でもない僕らにそこまでする価値なんてもうないのに。)
ミレイやルーベンと楽しそうに話すナナリー。
ナナリーには快適な環境。この整えられた環境なら体調も悪くならないだろうし、なってもすぐに治るだろう。
感謝してる。してもしきれないくらい。
でも、
(すざくが、いない)
彼がいないだけでどうして僕は何も感じることができなくなったのだろう。
こんなになるなんて思ってなかった。
土と埃のにおいがする土蔵。
朝昼は窓から入る薄い日光、夜には心許無い蝋燭。
質素な食事に硬い布団。
スザクがいたから、あったかく、感じてた。
(あいたい)
気がつけばスザクは僕の中で大きく大きくとても重要な人になっていたのだ。
僕を呼ぶナナリーとミレイの声に耳を塞いだ。
いまは、誰の声もききたくなかった。
2007.09.25
オオカミ少年は土の中に
「昔みたいにもっと自分らしくしたらいいのに」とスザクが言った。
向かい合うように生徒会室の椅子に座っていたルルーシュの顔から表情が消えた。
スザクはそれに気付かないのか、次々と言葉を続けていく。
「前はすぐ僕につっかかってきてたよね」「ああでも体力ないのは昔からだったね」
「そう言えば昔はもっと喜怒哀楽がはっきりしてたよね」
「それにほら、昔はもっと綺麗に笑ってた」
ルルーシュが笑った。見たこともないような、きれいな笑み。でも、どこか冷たくて悲しくて恐ろしい、それ。
背中に氷を入れられたように、スーッと背筋が凍った。
「ならお前は自分を作るのをやめたらどうだ」
「力でしか物を言えなかったよな」「自己中心的で、どこまでも自分勝手で」「今のお前が偽物のようだよ」
「この、偽善者」
今度は、スザクの表情が消えた。
向い合う二人の間には、言いようのない空気が漂った。
どこか虚ろな二人。
「…、」
どちらも口を開いて、そして言葉を発することなく消えた。
どうしてこんなことになったんだ。
いつも笑顔のスザクも凛としたルルーシュも、どこにもいない。
俺は、こんな二人なんて、みたこともなかった。
2007.10.02
世界をふたつに分ける話
男と女。
美味しいものと不味いもの。
好きなものと嫌いなもの。
世界を分ける方法なんてあげたらきりがない。
でも、僕に必要なのはたった一つの区分だけ。
「ルルーシュ」
自分でも驚くくらい穏やかな声がでた。
振り返った彼は、「スザク」と僕と彼の妹だけに見せてくれる聞かせてくれる優しい表情と声で振り返ってくれた。
「すきだよ」
僕の世界はルルーシュ・ナナリーと、それ以外で分かれているのだ。
2007.11.19