それを望むのならば
スザ→ルル スザクとユフィが付き合い始めた直後のスザクとルルーシュ



はじまりはなんだっただろう。

ルルーシュを机に押し倒してその上に覆いかぶさる。
やめろやめろと騒ぐルルーシュにここ教室だよ静かにしないと誰か来るよと告げると顔を青くさせ黙った。

たしか、僕が無理矢理抱いたんだ、今みたいに

唇を塞ぐ。意地になって口を開こうとしないから一度口を離すと涙目になったルルーシュと目が合った。

彼は泣きながらやめてくれと懇願した。けれど僕はそれを無視した。

ルルーシュがくしゃりと顔を歪める。

無理矢理にキスをした。

はずだったのに彼は僕の背中に腕を回したんだ。

きゅう、と強く優しく縋るように包むように。

何回抱いても、彼は最後には僕を受け入れてくれた。

のに


「もう、やめてくれないか、スザク」

「お前はもう手に入れたんだろう、大切なものを」

「お前を慰めるのは、もう俺じゃないんだよ」

「彼女を大切に、彼女と幸せになれよ」

「そろそろ、俺を解放してくれないか」

ルルーシュは今日初めて僕を拒絶した。
初めて抱いたときもそれから後も一度も拒否したことはなかったのに。



初めて抱いたあの日から、彼は僕がキスするたびにくしゃりと顔を歪めて僕を抱きしめてくれた。
僕は彼のその顔を見るたびに胸がきゅうと締め付けられる気持ちになった。
それは彼の意思に反して抱くことに対するものではなかったと思う。
愛おしくて愛おしくて止まれなくなって、いつも勢いに任せてルルーシュを何回も何回も抱いた。


ルルーシュが笑った。
涙を目に溜めながら僕が見出した制服から素肌を露出させて。

「もう、いやだ」

そういえばこのような雰囲気でルルーシュの笑顔を見るのは初めてだった。


はじまりはなんだったか。確か衝動に任せて彼を抱いた。
それからというもの何かあるたびに僕はルルーシュを抱いた。
彼があの時――最初僕が抱こうとしたときに拒否をしてくれたのならば、こうはならなくてすんだのだろうか。
でもそれはただの責任転嫁だ。


ルルーシュは普段、今までのことが何もなかったかのように僕に笑いかけてくれる。
けれど決して彼の領域に踏み込ませてくれなかった。
胸がぐちゅりと痛む。

そうか、僕はルルーシュのことが好きだったんだ。

今更気付いたところで、きっともうどうにもならない。




2008.07.12










優しい世界
ルルーシュとスザクを止めるナナリーの話



「もういい加減にしてくださいお二人とも!!」

荒れ狂う戦場に響いたのはか細い少女の声だった。
けれどその声は強い意志を持っていて、爆音と破壊音の響くそこで十分に通る。 突然のことにぴたりと今までの激戦が嘘のように止まった。

「ナナリー!!」

重なった二つの声は蜃気楼とランスロットからのものだった。
彼らの視線の先にいるのは彼らが呼んだ通り、エリア11の総督であるナナリー。
ナイトメアが飛び交い強風が吹くこの場に、ナナリーは車椅子に乗ったままたった一人で現れた。

「もうやめてください!お二人が行っていることは――きゃあ!」
「総督覚悟っ!!」
「ナナリー!」

突然の少女の乱入に止まっていた両軍は、無防備な総督に気づいた黒の騎士団がチャンスとばかりにナナリーに向けて銃を撃つ。 それに気付いた蜃気楼とランスロットは高速で移動しナナリーを守るように囲んだ。
その時に生じた風圧で車椅子が倒れる。
それを見たルルーシュは声にならない悲鳴を上げ今が戦闘中であることも顧みず蜃気楼の中から飛び出した。

「何してんだよゼロ!!どうして総督を庇ったんだ!!」
「黙れっ!!」

ゼロが総督を庇ったことに騎士団が信じられないと叫ぶと、それよりも大きな声でゼロはそれを叩き斬る。 ゼロが総督に近づいたことに気づいたブリタニア軍がゼロに向けて銃を構える。
総督で皇族であるナナリーが傍にいるというのに気が動転しているのか一斉に弾丸が放たれた。 せめてナナリーは、とルルーシュが抱き締め囲うと、それらはルルーシュの予想に反して全て四方に弾かれていた。

「…スザ、ク」
「枢木卿、何をなさるんですか!!」
「お前たちこそ何をしている!総督がいらっしゃるだろうっ!!」
「っ!」

お前らは一切手を出すなとスザクが命令してランスロットから飛び出す。
ナナリーを抱きしめるルルーシュの元へゆっくりと歩いて行く。
スザクから庇うようにぎゅっとナナリーを抱きしめる腕に力を込めた。彼の仮面はすでに外れていた。

「ナナリー、大丈夫か?」
「私は、大丈夫です」
「あっ!ナナリー、足!!」

車椅子が倒れたときにナナリーの足にそれがあたり、そこから痛々しく血液が流れている。 気が動転していたルルーシュはそれに気付かなかったが遅れてきたスザクがそれに気付き慌てて止血しようと二人のそばに座り込んだ。

「大丈夫です、気にしないでください」
「だがナナリー早く手当てしないと」
「そうだよナナリー!ルルーシュそれ貸して!」

止血しようと己の首のを外したルルーシュの手から奪うようにスザクが取る。
周りは手際よく止血するスザクとナナリーの背を支えるルルーシュを見ていた。
スザクがそうするのは分かる。けれどゼロがそうする理由が分からない周りは呆然としていた。

「ありがとうございます」

ナナリーの治療を終え、はっと気付いたルルーシュとスザクの間に気まずい空気が流れる。
それに気付いたナナリーは悲しそうに顔を歪め、手探りでルルーシュとスザクの手を握った。

「…お二人とも、もうやめてください」
「ナナリー…」
「だって、お二人とも私にはこんなに優しくしてくださるのに、どうしてお互いにはできなくなってしまわれたのです」
「…それとこれとは違うんだ、ナナリー」
「でも!!」

力強い、けれど寂しさを含んだ声があたりに響いた。

「ユフィお姉様は復讐なんて望まれてません、絶対に」
「っ」
「お兄様も、私は何も望んでいません」
「…」
「誰かを理由に誰かを憎むことは、その人を悲しませるだけです」

ナナリーはそれぞれの手に握った二人の手ごと一緒に、己の胸元でぎゅっと、握りしめた。

「ただ昔のようにと願う私は、わがままなのでしょうか」


お兄様、スザクさん


涙を流したナナリーに、ルルーシュとスザクはつられるように顔を見合わせ、思わず、空いている手でお互いの手を握っていた。


「どうして誰も傷つかない優しい世界が、ないのでしょうか」


切実に話すナナリーの声に、誰も動けなかった。




2008.07.13










この恋守るために
スザルル前提カレ→ルル 1期でスザクがユフィの騎士になった直後くらい カレンにゼロバレ済み



思わず伸ばした手は躊躇うことなく彼を抱きしめた。
きゃあと悲鳴が上がる。そんなの、気にならなかった。

「…カレン?」

戸惑いを含んだ声が少し上から聞こえてきて私を離そうと肩に彼が手を置いた。
なめんじゃないわよ。私を誰だと思ってるの。このくらいの力じゃ離してやんないんだから。
ぎゅうと力を込めた。びくりと揺れた彼の体から離れてやるものかともっと力を込めた。

「どうしたんだ、カレン」
「…別に」
「別にって」

呆れを含んだ溜息が聞こえた。ああ嫌になっちゃう。なに強がってんのよ馬鹿。私が気付かないとでも思ってるわけ?
慌てたシャーリーの声と驚いたリヴァルの声が聞こえる。 ごめんなさいシャーリー。私、あなたの気持ちを知っているけれど譲れないの。誰にも。
そう、枢木スザクにも、絶対に。

「悔しいなら怒ったら?悲しいなら泣いたら?」
「…は?」
「強がって馬鹿みたい。嫌なら嫌だって言えばいいじゃない」

藤堂中佐を助けに本部に戻った後、ゼロの悲しい高笑いを聞いた。 泣いてるんじゃないかって思って心配で、枢木スザクにムカついて、そしてすごく悲しかった。 彼の中に枢木スザクが根付いているんだって思って。

「あなたは一人じゃないのよ。あなたを守るのはあいつじゃないのよ」
「カレン、」
「気付いてよ馬鹿。あなたには私がいるじゃない。あなたは私が守るって言ったじゃない」

また体がびくりと揺れた。
細い体。こんな華奢で折れてしまいそうなくらい頼りない体でブリタニアに反旗を翻して私たちの光となって。
全て彼に押し付けてきていた。言われるままに任せ続けていた。
でも違う。これからは私が

「私があなたの騎士になりたい…違う、騎士になる。この命を懸けてでも全力であなたを守って、支えてたいの」

恋人が軍人な上に今度は皇女様の騎士様だなんて、あんたも相当見る目がないんだから。
敵を好きになったって幸せになれるわけないじゃない。

「絶対に、あんたが嫌だって言ったって離れてやるもんですか」

だから、あたしにしときなさいよ、ルルーシュ。


肩に置かれていた手が躊躇いがちにだけど、私の背中に回った。
少し力を入れられて抱きしめられて、弱々しい腕なのに私は呼吸ができなくなるくらい、それくらい嬉しかった。
(今はまだ代わりでもいい。けれど絶対、本当になってみせる)
私の肩にルルーシュが顔を埋めて、そこからひんやりと少し冷たいものが広がった。 人に弱さを見せない彼が私の腕の中で泣いてくれているのだと思うと、歓喜と恋慕で胸が震えた。
(後悔しなさい枢木スザク。ルルーシュは、あたしが守る)

そのためには修羅にでもなんにでもなれる気がした。




教室のど真ん中で抱き合ったことは二人は人気者なんですぐに全校に広まります。
病弱という猫を棄てて学校でもゼロカレ主従みたいにぴったりとくっついてルルーシュを守る男らしいけど恋する女の子なカレンがすきです。




2008.07.18