in the water
カレルル



「カレン」

少し目を細めて笑ってあなたはわたしの名前を呼ぶ。
ごぼ。ごぼ。ああまた空気がなくなる。
嫌いだったはずなのに今ではこうしてわたしの呼吸を奪う。
斜に構えて評論家ぶっているところが嫌いだった。
けれど今ではその奥に隠されたあなたを探すのに夢中。
ゼロの仮面を被りわたしたちを指揮するあなたが好きだった。
けれど今ではその奥のあなたが心配で不安になるの。


ごぼごぼと音をたてて口から空気が漏れる。
ゆっくりと沈んでいく体から少しずつ力を奪って呼吸ができなくなる。
気がつけば何も抵抗ができなくなっていてそしてわたしはこの深い水の底に沈んでいくのだ。


わたしはあなたのためになら死ねるの。
命をかけてあなたのその笑顔と存在を守り、そしてできることならあなたの隣にわたしが立って。

「なら俺はお前を守ろう」

ああもうそんなこと言わないで。そんな笑顔で言わないで。
ほらもうわたしには酸素が残ってないの。


あなたに溺れていくわたしはまるで水の中。




2008.08.02










眠れぬ夜はあなたのせい



ふと、寂しくなる時がある。
昼はいい。
教室にいればリヴァルたちがいるしクラブハウスに帰ればナナリーがいる。
ゼロとして活動しているときはC.C.もいるし、それに寂しくてもそんなの感じられないくらい頭を働かせなければならない。
でもそれすらない夜。
どうしようもなく、寂しくなる時があるんだ。

隣で寝ているC.C.を起こさないようにベッドから抜け出す。
窓際まで寄ってカーテンを静かに開けると曇っていた。
見ようと思っていた月すら見えなくて、それでもっと寂しくなった。

まさかこんなに自分が女々しいだなんて思ってもいなかった。
毎日電話やメールができなくても平気だと思っていた。
毎日会えなくても焦がれることはないと思っていた。

こんな日は寝れなくなる。
寂しくて、声が聞きたくて肌に触れたくて顔を見たくて抱きしめてほしくて、あいつの体温を感じたくて隣にいたくて。
眠りたいのに眠れない体は朝日が射すくらいになってようやく寂しさから解放される。
なんとなく、携帯を手に取った。
携帯を持てないあいつにこちらから連絡を取る術はなく、 やろうと思えば軍へかけ繋いでもらうことはできるだろうけれど身の上を考えればそれは危険すぎた。
時間は日付が変わったくらい。
朝にはまだまだ時間がある、でも料理や掃除をして気を紛らわせるには遅い時間。
さてどうしようと、とりあえずパソコンに電源を入れたときに、ふと、手の中の携帯電話が震えだした。
発信者名は出ない。
こんな時間にいったい誰だと思う気持ちと、もしかしてと思う気持ちがせめぎ合って、電話をとった。

「……もしもし?」

少し、間をあけて答える。
息が詰まる気がして、ただ相手の返答を待った。

「あ、ルルーシュ?寝てた?」

聞こえたのは焦がれた声。
胸にずんと沁み渡って、体が動かなくなった。

「…起きてたさ」
「そっか、よかった。ね、何してた?」
「それよりお前今日軍務だろ?どこからかけてるんだ?まさか施設内からじゃないだろうな」
「ん、違うよ。今は休憩時間。外に出て公衆電話からかけてるんだ」

だから安心して、と優しい声が耳に響く。 見えないけれど、きっと微笑んでるんだろうなと思うと、自然と胸が温かくなった。

「そうか」
「うん。あーあ、もう3日!」
「ん?」
「ルルーシュと会ってない日だよ!」

不貞腐れたような声に思わず笑みがこぼれる。 けれど馬鹿だな、と素っ気ない声と返事しかできない自分の性格が嫌になった。

「だってさあ、3日だよ3日!しかも缶詰状態だから全然会えないし。 …学校の目の前なのにな。こんなに近いのに全然会えないなんてね、変になっちゃいそう」

苦笑交じりの声に、なんだか急に涙が出そうになった。
だって、俺に会いたいって。会えないから変になりそうだって。な、おかしいよ、俺。 あんなに寂しかったのに、お前の声を聞いただけでこんなに、胸が軽くなるなんて。

「……かったんだ」
「え?」

「寂しくて、眠れなかったんだ」

ああなんて現金なやつなんだ俺は。
さっきはつい素っ気ない態度をとってしまったというのに、今度はなんか余計なことまでも言ってしまいそう。

「スザクに会えなくて寂しくて、寝れなかったんだ、俺」
「え、え、ええ!?」
「な、スザク、早く軍務終わらせて、早く学校に来て、早く俺に会いに来いよな」

戸惑うスザクの声に笑みがこぼれる。

「絶対、絶対すぐ終わらせて、そしたら一番にルルーシュに会いに行くから!!」

時計を見ると電話がかかってきてからまだ10分も経っていない。
なのに今はもう、眠れるような気がした。




2008.08.24










鳴いた鳥の言い分
狂木注意



好きな人がいます。 その人は10人中10人、いえ、誰に聞いても褒め称えるほどとても美しい人です。
僕はその人の幼馴染です。
といっても実際共に過ごしたのは1年ほどなのですけれど。
昔から細く、子供なのにきれいな顔をしていたそんな彼はやはりとても美しい人に成長していました。
彼のことをもっと知りたい。
自分だけを見てほしい。
自分だけのものになってほしい。
そう思う毎日でしたけれどそれは叶うはずありません。
だって彼には大切な大切な妹がいるのです。
僕もその妹のことは大切です。
それに彼に嫌われたくないという思いが先行するのです。
そんな彼に想いを伝えることもできずに友人として過ごしていたある日、僕は知ってしまったのです。
彼を僕のものにできる、最大にして最高の秘密を。



両手を手錠で繋ぎ両足を縛りさらに錘をつけた。
満足に身動きのとれない彼はもはや僕の手がなければろくに動くこともできない。
先程までの行為のなごりだろうかそれとも悔しいのだろうか、涙の跡が残り一糸纏わぬ姿につま先から頭のてっぺんまでぞくりと鳥肌がたった。
もちろんそれは恐怖のような負の感情ではなくて、歓喜のもの。
包帯でぐるぐるに巻いた左の眼にはいったい何が映るのだろうか。
否、何も映らない。映るはずがない。
だってその包帯の向こうにはもうガラス玉しか入っていないのだから。
彼の右目と同じきれいなきれいな紫色のガラス玉。



「ねえルルーシュ。僕、君の秘密、知っちゃった」

そう告げたとき、彼は一瞬だけ大きく目を開き、けれどそれから冷静さを繕うようにいつものように少しだけ笑ったのです。
実を言うと、確証はありませんでした。
けれど彼のその様子と、そして額を伝う一筋の汗に僕は確信することができたのです。
このときの僕の気持と言ったら、きっと言っても誰も理解することはできないでしょう。
僕は白を切ろうとする彼にポケットから取り出した銀色のナイフを見せつけました。
これは先日街で偶然見つけたものです。
殺傷用のナイフなのに美しいフォルムを描き、柄には紫のガラス玉で装飾が施されていて、僕は一目ぼれしてすぐにそれを買いました。
少々値は張ったのですが、美しい彼にはこれくらい美しいものではないと似合わないと思ったのです。

「これから言うお願い聞いてくれたら、僕、君を軍に突き出したりしないよ」
「…それは脅しか?」
「違うよお願い」
「そんなものチラつかせながら言う奴のセリフじゃないな」

そう言った彼はやはりきれいでした。
とても美しい人です。

「まず、その左目。潰させて」
「っ!」
「大丈夫だよ。痛いかもしれないけど、でもそれは今まで君がしてきた罪よりもずっと軽いものだと思うよ」
「…でも、なんで目なんだ」
「だってそれが全ての元凶だろ?ギアスとかいう呪われた力の源」

全部知ってるんだな、と言った彼に僕は何だか嬉しくなりました。
だって彼が認めたのです。
僕は嬉しくて嬉しくて、それを隠すことができなくて表情にそれを表したまま言いました。

「それで、あとね、僕のものになって」

ずっと好きだったんだ誰にも渡したくないしずっと君を僕しか見れないようにしたかったんだ。
思いの丈をぶつけると意外にも彼は小さくだけど、けれどはっきりと頷き肯定の意を言葉にしてくれたのです。

「ありがとうルルーシュ。好きだよ…愛してる」

誰もが認め褒め称える彼の美しい顔。
そんな彼に傷をつけることにどうしようもない歓喜で体が震えました。
そんな体を叱咤し、僕は持っていたナイフをそれはそれは美しい彼の恐ろしく赤く光る左目に振り下ろしました。




2008.08.31