Take it easy.
今日も第11皇子の騎士は校内を走り回っていた。
理由はもちろんただ一つ、己の主を探すため。
「もう、どこに行ったんだろう…」
己の犯した失態。
それにスザクは悔やみながらも仕方のないことじゃないか、と内心逃げた皇子を恨んだ。
まさか自分がトイレに行っているわずかな時間に授業放棄のために逃げるなどいったい誰が考えよう。
同じように何度も逃げられているスザクは大概それを学ぶべきなのかもしれないが、何と言っても相手は生理現象。
己の意思ではどうすることもできないし、かと言って自分のトイレに皇子を付き合わせるわけにもいかない。
学友に逃げないように見ててと頼んでもあの皇子を止められることはできないだろう。
結果、気まぐれに逃げ出す皇子を探すことは最早毎日の運動の一環となってしまっていた。
無情にも授業開始のチャイムが鳴る音を聞く。
ああ今日も負けてしまったとスザクが項垂れたとき、背後からよく知った気配を感じそちらに顔を向けた。
「…殿下。どうしていつも僕がトイレに行ってる間に抜け出すんです…」
「殿下はやめろ。それに、それはお前が俺から離れるのはその時くらいだから、かな。」
「…ルルーシュ、お願いだから、逃げないでよ」
「授業の1つ2つサボったところで俺の成績に支障はないから大丈夫だ。」
いやいや自分が心配してるのはそんなことじゃないから。
本人にそう言えることも出来ず内心スザクは溜息をはく。
授業とかどうでもいい。いや、本当はどうでもよくないんだが、
己の主の頭のよさを知っている自分としては彼が授業をさぼることによる勉強の遅れを心配する必要はない。
もちろんちゃんと授業にも出てほしいのだが己が心配なのはただ一つ。
自分のいない間にルルーシュが危険な目に遭うんじゃないかということ。
自分が傍にいるときならまだいい。命に代えてでも守り切ってみせる。
ただ、離れているときに襲われたらどうしようもできないじゃないか。
スザクは悠々と近づいてくるルルーシュを恨むような目で見た。
「せっかくの学生生活だ。気楽にいこうじゃないか、我が騎士スザクよ。」
騎士の心主知らず、と言ったところか。
にっこりと嬉しそうに微笑み手を差し出した己の主に、
騎士は内心本日何度目になるか分からない溜息をついてその手に口づけを落とした。
2007.05.04
positive
今日はスザクの様子がおかしいことになんとなく気づいてはいた。
学校でも常に自分の隣に立つのに(後ろに控えようとしたのを以前怒ったからだ)今日はそれがなかった。
もちろん過保護なまでに自分に構うことには変わりないのだが、そばに気心の知れた人、
たとえばリヴァルやシャーリーなどがいるときにはスザクは話の輪に入ることはせず(それでも近くにはいたのだが)
黙々と何かを読んでいる。
どこか見覚えがあるが思い出せない分厚い本。読書より運動、というタイプの彼が本を読んでいることは大変珍しく驚いた。
いつもより自分を構わないことに少し不満も覚えたが、それでも彼が読書に熱中しているのだ。
それも時折マーカーや赤ペンを取り出して印をつけるくらい。
そんな彼を邪魔してはいけないと特に気にしていなかったのだが…
「……それは一体なんだ、スザク」
学校から帰って来ても未だ真剣に本を読み続けるスザク。
それも騎士としての仕事もこなしながら、だ。
騎士としての仕事を何よりも重要と考える男が、学校だけでなく公務に戻った時にまで。
だから興味が湧いたのだ。そんなに面白い本なのかと、俺を放っておくほどなのか、と。
そうしてよく見ればうんうん唸っているスザクの背後からその本を覗き込んで、その内容に先ほどの言葉が出た。
「え、っと…ブリタニア史?です」
「そんなことを聞いてるのではない」
明らかに自分の声が怒気を含んでいるのが分かる。
それを感じたスザクが何かしたのだろうか、とおどおどしだした。
ついでに敬語はやめろよ、と付け加える。
「それはお前の意思か?違うだろう。お前がそんな本を読むはずがない。」
「それは…」
「大体、学校にいる時から珍しいとは思っていたが…誰だ。誰がその本をお前に渡した。」
「シュナイゼル殿下、だけど…」
それがどうかしたの?と不思議そうに見つめてくる己の騎士に溜息をついた。
やはり、こいつは何も知らなかったのだ。
「…それは俺たち皇族がブリタニア史をはじめ歴代皇帝など、皇子皇女としての教養を身につけるときに使う本だ。」
「えっ!?」
どうりで難しくて細かいと思った。
そう呑気に言った騎士に頭痛がして思わず頭に手をあてる。
体調が悪いのか、と尋ねるスザクに気にするなと言い放ち、この本を渡した何歳も上の兄を思い出した。
(あの人はいつもいつも……)
こんなのは初めてではなかった。
俺とスザクが恋人同士ということが気に入らないらしい兄上は何かとスザクに嫌がらせまがいのことをする。
それに幾度となくひっかるスザクもスザクだが。
「シュナイゼル殿下が今度ブリタニア史についてテストをするからそのためにこれを読んで勉強しなさい、
とくださいまして。」
ちょっと大変だけど、とにこやかに笑ってそう言うもんだから頭痛は治まるどころか悪化する一方で。
ようするに気づいてないのだ、自分が嫌がらせを受けているということに。
どこまで人が良いんだ、と調べてみたくなる。
「…お前、それは遊ばれているに決まってるだろ!そんな本、俺ですら嫌になるほどだったんだぞ!」
自分の父親、現皇帝は98代目だ。つまり歴代皇帝が97人分あるのだ。
それだけでも考えるだけでも恐ろしいのに、それだけ皇帝がいれば当然ブリタニアは何百年も続いているのだ。
本当に自分でも覚えるのが嫌だったのに、身体能力とは違い人並みの頭脳しか持たないスザクにとって
この本のマスターは不可能としか言いようがない。
「でもさ、これ読んでシュナイゼル殿下のテストに合格したら僕たちのこと認めてくれるかもしれないしね。」
果たしてこれ以上ない嫌がらせをこれほど前向きに捉えられる人間は他にいるのだろうかいやいない!
笑顔で無理難題の嫌がらせを受け入れた己の騎士にせめてもの気持ちとして
「頑張れよ。合格したら何でも言うこと聞いてやるよ」と言ってやると目を輝かせてさらに本に向き合った騎士に、
今度こそなにも言えなくなった。
2007.05.11
regardless of
「これは一体どういうことです!!」
「何がだ?」
叫ぶ騎士の顔も見ずにしれっと手元の資料に目線をやったまま答える皇子。
普通の主従関係では騎士がその主を怒鳴るなどあってはならないことだが、ここではよくある風景。みんな慣れていた。
スザクはダン、と手を机に叩きつけた。
「だ・か・ら!これは一体どういうことですか?」
「お前こそどういうつもりだ。敬語はやめろ」
「あーはいはい!じゃあもう一度聞くよ。これはどういうこと!?」
スザクは己の持つ物をルルーシュに突きつけた。
それを鬱陶しそうに軽く手で払い、視線をスザクに合わせた。
「お前の衣装だが?」
「だから!なんで僕がこれを着ることに…ってどうして君がそれを着てるの!?」
会長の思いつきで実行された『逆転祭』。
何を逆転するのかは自由で本人に任せるわ、という結構投げやりかつだからこそ難しいそれ。
ほとんどの人が結局男女逆転祭のときの制服を着ようと決める中、スザクも迷った結果他と同じように女子の制服を着ようかな、
と考えていたのだ。
そんな感じで副業である学生服を脱ぎ、さあ騎士服に着替えようと自室に入りクローゼットを見てまず焦った。
騎士服がない、と。
どこかに脱いだままにしているのだろうかと焦りを隠せないまま部屋に目をやると、
ベッドの上に『スザクの衣装』と書かれた紙が貼られた袋を発見。
中を覗き込んで、それはもう人外としか思えない早さで学生服の上を脱いだまま己の主人の部屋まで走って行ったのだった。
「これって、君の皇族服じゃないか!!」
そう、それは紛れもなくルルーシュの皇族服。
そしてルルーシュが着ているのがスザクの騎士服だった。
「逆転祭なんだろ?だからお前がそれを着て、俺がこれを着る。逆転じゃないか。」
ニヤリと確信犯的な笑み。
はあ、と思わずスザクは溜息をついた。
「まあいいじゃないか、たまには。学校じゃこの格好はできないんだ。だからここで逆転祭、だ。」
ああ、確実に暇つぶしだ。僕をからかってるに決まってる。
怒られるのは僕なのに、それにも関わらず今日も可愛らしいいたずらをしてくれた皇子に、騎士は溜息をついた。
その後ルルーシュの部屋を訪ねてきたクロヴィスにスザクが目いっぱい怒られたのは言うまでもない。
2007.05.17