fair



さあ僕一生懸命頭を働かせるんだ。
考えろ考えろ考えろ!

『試合開始ーーー!!』

ゴングと共に響く司会者(第2皇子)の声。
僕は不敵な笑みを携え剣を構える第2皇女の後ろに鬼を見た。


襲いかかる剣を自分のそれで受けながら、頭はぐるぐるとまとまらない考えが渦巻いている。
どうしてこういうことになったのか、僕にはさっぱりさからない。
ただ分かることは、

(どうして僕は両手両足に重りを付けて馬鹿みたいにリーチの短い剣で第2皇女と戦っているんだ!?)

いや、分かることなど何一つなかった。
時折ナナリーやユフィの応援する声が聞こえる。場に合わずほわほわした声援。

「あ、のっ、殿下!どうして僕は、殿下とお手合わせを…?」

とりあえず疑問は聞いてみるべきだ。
間合がとれたときに思い切って叫んでみる。
殿下はというとにやりとルルーシュが悪だくみを思いついたときと同じような顔をした。
(あ、似てるなー。母親が違くてもやっぱり姉弟だな…って今はそんなことどうでもいいって!)
そんなことを考えてるときじゃないとぶんぶんと頭を振り、目の前のコーネリア殿下に視線を合わせて、背筋が凍った。

「勝負をして私が勝ったら、ルルーシュはお前と別れるそうだ」
「は!?」
「すまないスザクっ兄上と姉上に無理やり…っ!!勝てスザク!俺はお前と別れたくない! お前も俺と別れたくなければ全力でコーネリアを倒せぇぇぇぇぇぇ!!」

愛しの主の声のする方をみれば、第2皇子の隣で椅子に縛りつけられたルルーシュ。
よっぽど気が動転しているのか、大勢の観衆がいる中で第2皇女を呼び捨てにした。
だがこっちもそれどころじゃあなくなってしまった。

「僕がんばる!僕もルルーシュと別れたくないっ!」
「なら枢木、私を倒してみろ!!」
「っそれは…!」

曲がりなりにも僕は騎士。そんな僕に皇女を、それも主よりもずっと位の高い皇女を倒せと。そう言うのか。
それに僕の両手足の重り、どう考えても両手の分だけで10キロはある。

「その重りはハンデだ。私は女だからなぁ」

心を呼んだかのようなタイミングで言った第2皇女。こういうことで女扱いすると怒るのは誰だ、 と叫びそうになるのを必死に飲み込んだ。
間違えて叫んでみろ、確実に殺られてしまう。

(ハンデって…相手が皇族ってだけで十分じゃないか!)

だがいくら皇女が相手でも負ければルルーシュと別れなければならない。そんなの、絶対に嫌だ!

フェアじゃない!そう思いつつも第2皇女が踏み込んだのをみて僕も剣を構えた。




2007.09.24










lean



会長の発案で生徒会メンバーで旅行に行くことになった。
危険だ、と騒ぐ兄たちをどうにかして黙らせ(強硬手段をとったのは言うまでもない)2泊3日の小旅行に出た。

「ルル―!スザク君もほら、こっちにおいでよ!」

賑やかに騒ぐリヴァルやシャーリーたちに小さく遠慮する、と断った。
正直、疲れていた。
旅行に行く条件として出されたのは山のような書類の処理。それが終らなかったら諦めろ、 と明らかに行かせるつもりのない量の書類を半ば意地になって終わらせたから少々寝不足なのだ。 騒ぐ元気など残っていない。
それに、と隣に視線を移した。
隣には目を擦り下りてくる瞼を必死に開かせようとしている己の騎士スザク。
彼には、悪いことをしたと思っている。
俺が本当に書類を終わらせるとは思っていなかった兄たち(あの時の悔しそうな表情は決して忘れない!)の次の標的はスザク。 約束したものは仕様がないから、とスザクに下した命令。

「宿泊ホテル及び観光予定地やその周辺の安全確認。加えていつも以上の厳戒態勢で警護をすること!」

馬鹿兄(第2皇子)のその命令によってスザクが下見に出たのは3日前で帰ってきたのが今日の早朝。そして休む間もなく出発。
疲れがとれるはずもない。

「スザク」
「は、はい!!」

再び意識を持って行かれそうになっていたスザクに声をかけると、慌てた声で返事が返ってきた。 ピンと背筋を伸ばしたスザクに苦笑して、その頭を自分の肩に寄りかからせる。

「ああああああの、でん、か…?」
「殿下じゃない、ルルーシュが」
「あ、ルルーシュ…あの、これは一体どういうことでしょうか…」

眠気で頭が働かないのだろう。普段公務以外の時では普通に話すスザクが、 一度訂正させたにもかかわらず敬語が取れていない。
ばたばたと小さく暴れるスザクを無視して、そのくるくるの髪の毛を撫でた。

「眠いのなら寝ろ。あと今は仕事中じゃないだろ」
「でも…自分は、でんかの警護というにんむちゅうでありまして」
「そんなのいつものことだろう」
「でも」
「俺もお前も遊びに行くんだ。兄上たちはああ言っていたが仕事じゃない。だから、ゆっくり休め」
「…う、ん!!」

半分以上寝ぼけているスザクがおもしろくてたまらない。
ところどころ呂律が回らなくなっていて、何が警護中だよ、と笑いそうになったのを我慢した。
周りから見えないように軽くスザクの頬にキスを落とす。
一瞬のうちに顔を赤く染め上げたスザクの頭を眠気を誘うようにまた撫でる。
スザクの身体が少しすり寄ってきて、ありがとう、と声のあと、すぐに寝息が聞こえ始めた。

「おやすみスザク。いつもありがとう」

もう一度、今度はくちびるにキスを落とした。




2007.09.24










switch



「あ」

カリカリとシャープペンの音がする小テスト真っ最中の静かな教室に一つの声が響いた。
その声が小さなものではなく教室中に響くそれなりの大きさだったから自然と皆の視線が集まる。 ただその声の人物が意外であったからなのかもしれないが。

「どうしたランペルージ」

ぴくりと反応した教師が声を上げた生徒、ルルーシュの名を呼ぶ。
しかし呼ばれた当人はそんなの全く聞こえていないのか、しまったな、と顔をしかめながら腕時計をじっと見ていた。
再度どうしたのかと尋ねる教師にはやっぱり答えず、ルルーシュは携帯電話を取り出してそれを見て目を大きくさせた後、 額に手を当ててはあと一際大きなため息をついた。

「…しまった、忘れてた」

その声と同時にドタドタと廊下で荒れた足音が響いて、ルルーシュに注目していた者たちは自然とそちらに目線を移した。
ルルーシュも同じくそちらを見てバツの悪そうな顔をして机の上の物も中に入れていた物も全て己の鞄に入れ始める。
それに気づいたリヴァルがおいルルーシュ?と尋ねると同時にプシュと音を立てて教室のドアが開いた。

「…ルルーシュぅー」

現れたのは非常に情けない顔をした本日軍務で休みのはずの枢木スザク。
少し涙目になりながら入ってきたスザクはその場で立ち止まりルルーシュを恨めしそうにじっと見つめる。
ルルーシュはさらにばつが悪い顔をしてつつつと視線をそらした。
うー、と情けない声を発したのがスザクで、小さく舌打ちをしたのがルルーシュ。
ルルーシュのその舌打ちが聞こえたスザクはさらに恨めしそうにルルーシュの名前を呼んだ。

「なにしてるの…」
「…いや、その」
「時間…ぼく、ちゃんと朝言ったよねえ?」
「…聞いた」
「今朝だけじゃないよねえ…僕、昨日も一昨日もその前からずっと言ってたよねえ」
「…ああ」
「忘れないでねって、なのに…なのにぃ!!」

情けない恨めしそうなスザクの声に全面的に自分に非があるルルーシュはさすがにまずいと思ったのか恐る恐るスザクに視線を向けた。
項垂れる己の騎士。明らかにいじけている。
それと乱れた学生服の首元から覗く見知った白い布地に、 恐らく着替える時間もなくパイロットスーツを着た状態で追いやられたであろうその姿にルルーシュはさすがに心がちくちくと痛んだ。

「…悪かった」
「ほんとうだよ…僕ちゃんと言ったのに…」
「本当にすまない。その…忘れてたん、だ」
「やっぱりぃ!そんな事だろうと思ってた!!これならやっぱり軍務を休むか君を休ませるかすればよかった…」
「そんな…たかが健康診断ぐらいで」

そう、ルルーシュが忘れていたのは年に2度ある健康診断だった。 ナナリーやスザクなど自分の周りの人間のことならともかく、自分に非常に無頓着なルルーシュはよく健康診断を忘れる。
それを嫌というほど知っているスザクは日程が決まった日から今朝まで何十回何百回と言っていたのだ。 今日も休憩時間にメールを入れて。
ちなみにそれを見て溜息をついたルルーシュの携帯は新着メールが5件、さらに着信が全てスザクからので綺麗に埋まっていた。 ちなみにもっと言うと、本日の開封済みメールを含めるとそれも20件近くある。
周りはまあ慣れているとはいえ、突然、 しかも小テストの最中に始まったスザクとルルーシュの痴話喧嘩(とみなしている)にどうしていいのか分からずただ傍観していた。

「たかが?」

していたのだが、急に変わったスザクの雰囲気にこれ以上関わってはいけない気がして机に向きなおす。 けれど集中なんてできるはずがない。

(しまった…地雷を踏んだか)

ルルーシュはルルーシュでそのスザクにひやりと汗を流した。
このままでは、思わぬことでスイッチが切り替わってしまうもはや二重人格と言ってもいいんじゃないかと思ってしまうスザクの地が、現れる。
その状態のスザクは到底手に負えない。 まずいと思ったルルーシュは急いであらかじめ用意していた早退届を教科担当の先生に渡すと「すみません早退します」と告げ鞄を持って小走りにスザクの元へ行く。
それでどうにか切り替わる一歩手前で止まったスザクはやっぱり恨めしそうにルルーシュを見ながら手を引いた。
早く行くよ、ということらしい。
ルルーシュは教室内に失礼しますと一言かけると、そのままスザクに手を握られた状態でプシュとドアの向こうに消えた。

「…なんだったんだ、あれ」

誰となしに吐いた言葉に答えられる者はいなかった。




2008.07.19