記憶を書き換えられたルルーシュがそのまま皇族に戻ってるパラレル。にょたルルです。
「そうだルルーシュ。おとぎ話をしてあげよう」
執務の合間、少しの2時間ほどできた休憩時間にチェスをうっていたルルーシュは、そのチェスの相手、
自分の兄でもあり宰相閣下でもあるシュナイゼルからのらしくない言葉にえ?と少し笑った。
「兄上がですか?」
「おかしいかい?昔は寝付けない君によく話してあげていただろう」
「おかしいというより…私はもう18になるんですよ。そんな、急にどうしたのですか?」
「いや、なんとなく私が話したいと思ってね」
シュナイゼルは紅茶をソーサーに置くと、右手で白のポーンを掴み動かした。
ルルーシュはそれをみて少し次の手を考えると、黒のナイトをひとつ動かす。
「まあ聞いてくれ、ルルーシュ」
「そうですね。お聞きします」
シュナイゼルはにこりと微笑み、そしてまた紅茶を口に含んだ。
「ある国に、とてもとても美しい皇女がいたんだ」
「おとぎ話の定番ですね」
「こらこら、そういうことを言うもんじゃないよ」
「はーい。それで?」
「その皇女にはたくさんの腹違いの兄弟がいたんだ。そして、彼女と同腹の妹がひとり」
話しながらもチェスは進んでいく。
シュナイゼルは手元を見ながら、そしてゆっくりと話すのをルルーシュはどこか懐かしい気持ちで聞いていた。
「けれどある日彼女の母親は殺され、妹は目と足が不自由になったんだ」
「それが許せなかった皇女は父親である皇帝に逆らい、妹と共に他の島国に捨てられてしまった」
う、と急にルルーシュに吐き気が襲ってきた。
それを表情には出さないように努めたが、それでも左手で口元を覆った。
どうしてだろう。この話、あまり聞きたくない気がする。
ルルーシュはそう思いながらも、話をするという兄をとめる術も力もなく、
ただチェスを動かしてその気分の悪さを誤魔化そうとした。
シュナイゼルはそんなルルーシュに気づいているのかいないのか、いや、
気付いているはずなのにそれでもただただ駒を動かしそして優雅に紅茶を一口飲んで微笑んだ。
「その皇女も成長し、そう、とても美しい女性になった」
「そしてその皇女はあるきっかけで魔女と出会い、ある力を手に入れた」
ちから、ですか?そう問うとシュナイゼルは何も言わずに少し頷いた。
空になった紅茶を自分のとルルーシュのを入れ、そしてまた話に戻る。
ルルーシュは少しずつ、やっぱり吐き気が酷くなるのを感じていた。
「彼女の左目に宿ったその強大な力は、自分の祖国を壊すための足掛かりとなった。彼女の祖国に占領された他国民を率い、
テロリストを立ち上げたんだ。」
「皇女ということを隠し、顔を隠し、性別を隠し」
「ただ、その皇女の妹が幸せに暮らせる世界を望んで」
シュナイゼルは相変わらず微笑みながら話を続けた。
時折ルルーシュをじっと見ては微笑み、そして紅茶を口にして。
ルルーシュはこみ上げる吐き気の他に、今度は自分の左目がずく、と疼くのを感じた。
「けれどそんな皇女にも恋人ができたんだ。幼いころに捨てられた島国で出会った一人の少年。
そう、彼に再会したんだ。」
「皇女はその少年が生きていたことをとても喜んだ。もちろんその少年も。
…彼女たちが恋に落ちるのも必然だったのかもしれないね」
「だけど、その少年は皇女の憎む祖国の軍人になっていたんだ」
ルルーシュは、それから後のことを覚えていなかった。
こみ上がる吐き気と、いっそ抉り取ってしまいたくなるほどの激痛を訴える左目にどうすることもできず、
両手で左目を押さえ前のめりに蹲った。
(いやだ。わたしはこの話を、聞きたくない。知らないはずなのに、知ってるきがする…)
(いや。ききたくない…!!)
「ルルーシュ」
己の前に影が落ち、右頬に添えられされるがままにルルーシュは顔を上げた。
そこには左手でルルーシュの右頬を包む、大好きで優しいはずの兄シュナイゼルがいた。
愛しむようだったその眼を見るのが怖くて、ルルーシュは知らず知らずの内に身体を震えさせていた。
「大丈夫かい?そんなに身体を震わせて。顔色も悪い。いけない、風邪をひいたのかもしれないね」
優しかったはずの笑顔は、今のルルーシュにとっては恐怖でしかない。
けれどルルーシュ自身、どうしてシュナイゼルを恐れるのかが分からず、
けれども確かに自分はシュナイゼルに怯えているのを感じていて、もうシュナイゼルに触れられているのさえ怖かった。
いや、と、ルルーシュの口からか細く拒絶の言葉がこぼれたときだった。
コンコンと控え目なノックが響き、シュナイゼルがそれに返事したことにより一人の青年が入ってきた。
その真っ白な騎士服のようなものに身を包んだ青年を見た瞬間、ルルーシュの左目から流れるように涙がこぼれた。
「シュナイゼル殿下。お時間になります」
「ああ、もうそんな時間か」
事務的に告げる青年にシュナイゼルはそちらを向くこともせず答えると、
未だ流れ続けているルルーシュの涙に唇をよせて吸った。
シュナイゼルのその行為に無反応なルルーシュとは違い、自分の後ろに立つ青年がビクッと身体を震わせたのにシュナイゼルは
笑みを隠しきれなかった。
「枢木、今日の執務だが、ルルーシュはどうやら体調が悪いらしい。彼女を部屋まで連れて行ってやってくれないか?」
「っ、自分が、ですか?」
「そうだね。君にお願いしよう。と、いうより、君はルルーシュの騎士なのだから」
「…イエス、ユア ハイネス」
青年、スザクはルルーシュの体勢を少し整え、そして自分の腕を腰と膝の裏にあてがいゆっくりと抱え上げた。
シュナイゼルはその様子を見て小さく声に出して笑うと、白のナイトをとって移動させた。
ガラガラ、と派手に散らかる音がした。
「チェックだよ、ルルーシュ。」
左手で左目を押さえつづけ、そしてただ涙を流し動かなくなったルルーシュを見て
スザクは自分の胸が締め付けられるのを感じた。
自然と、抱き抱える腕に力が入っていた。
そして力なくスザクの服を握るルルーシュの右手。
それらを見て、シュナイゼルは可笑しそうに顔を歪めて言った。
「ああ、ルルーシュ。最後を話してなかったね」
最後、反逆に失敗した皇女はその仮面を剥がれ、最大の敵にして最愛の恋人に捕まったんだ。
そして己の地位と信念のために皇帝に皇女を売ったんだよ、その恋人は。
「その皇女にとっての罰は記憶を書き換えられたこと。大切な妹の記憶を消され、憎んだ国のためにその知能を使うように。
その恋人にとっての罰は皇女の騎士になること。少年を愛したことさえ忘れた皇女の騎士として、
逃げられない罪悪感と共に、一生傍で尽くすこと。」
チェスボードの上には黒のキングと白のナイトの2つだけ。
他の駒はすべて先ほどのシュナイゼルが白のナイトでもって床に落としていた。
スザクはそれを見てギリ、と歯を鳴らしシュナイゼルが出て行ったドアを睨み、ルルーシュは漠然と、
けれど本当は確信をもって、この話は自分たちのことなのだと、スザクの腕の中で思った。
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記憶を書き換えられてそのまま皇族として過ごすルルーシュ(にょた)と、事情を知っている宰相シュナイゼル、
シュナイゼルによってルルーシュの騎士に選ばれたスザクの話です。ちなみにこれではルルーシュの記憶は戻ってません。
記憶を書き換えられたルルーシュは無邪気にスザクに笑いかけます。
まだルルーシュのことが好きなスザクにとってそれはただの生き地獄。
そしてナナリーのこともスザクのことも忘れブリタニアに尽くすルルーシュの罰。
で、ルルーシュのことが本当は好きなシュナイゼルの嫌がらせ。
あれ、別にルルーシュを女の子にしなくてもよかったぞ(笑)
2008.05.22