現代パラレル。20〜24歳くらい。スザルル♀←ジノ。





床に広がる絹のような黒髪。
逃げられないように床に己の手で縫い付けた腕はか細く力の加減を誤れば折れてしまいそう。
男に押し倒されるというこの状況でもひるむことなく真っすぐ見つめるその視線。

「ルルーシュ、」

すきになったのは、親友の一番大切な人でした










愛うらら










特に用もなかったけれどぶらりとコンビニに出かけた帰り道。 スポーツの強化選手とかなんとかで親友が外国へと行ってからは暇で、 携帯を開けば遊ぶ相手はたくさんいたし誘われもしたけれど、それでもそんな気にはなれずだらだらと毎日を過ごしていた。
そんなとき、ふと目に入ったのは慣れ親しんだ部屋から漏れる光。いないはずの親友のアパートの部屋。 まだ2週間も経っていないというのに帰ってきたのだろうか、と鉄でできた外階段を夜だというのにガンガンと音を立てて上り、 はやる心臓を抑えきれずにチャイムを鳴らした。

「はい」

出てきたのは親友スザクの彼女、ルルーシュだった。







「あいつがいない間、部屋を掃除しておくと約束してるんだ」

ことりとお茶を出された。
主のいない部屋で他人が寛いでるというのも変な話だがルルーシュは彼女だし自分は親友だしまあいいかと自己完結した。
それよりも、先ほどから普段の倍以上の早さで脈打つ心臓を抑えるのに必死だ。
一人暮らし用の小さなテーブルの反対側にはルルーシュ。腰ほどまでの長い髪は掃除していたためか結い上げられていて、 いつも髪をおろしている姿しかしらない私の心臓は跳ね上がった。

予定では3ヶ月、長引けば半年。使えないと判断されれば直ぐにでも帰国。
そのような状況でアパートを引き払うのは荷物もあるし面倒だとスザクは部屋をそのままで旅立ったのだから、 今考えればその部屋を恋人であるルルーシュが掃除のために訪れていてもなんらおかしくないのだと、 数分前の自分のうかつな行動を恨んだ。
正直、耐えられない。
僕の大切な人なんだ、と紹介されたその瞬間に心臓が跳ね上がった。
所謂ひとめぼれだった。
照れてはにかみつつ幸せそうに紹介するスザクの隣で無表情で自己紹介をしたルルーシュ。 最初は綺麗だけど無愛想な女だなと思った。けれど、スザクに対する表情を見てそれはがらりと変わった。 たぶん、その瞬間にこの恋は確かなものになった。
自分にもいろいろな表情を見せてもらいたくて、 彼女は自分の内に入れた人物には気を許してくれるんだと知ったからそうなれるように頑張った。
そんなの初めてだった。友達に対しても今まで付き合ってきた彼女たちに対してもこんなにも望んだことはなかった。 それくらい、本気だった。







押し倒した拍子に髪留めが外れ結い上げていたそれがぱらりと床に散った。

「ルルーシュが、好きなんだ。初めて会ったときから、ずっと」

この気持ちは一生言うことなく体内で燻らせたまま一生を終えるのだと思っていたし決めていた。
だって自分にとってスザクは大切な親友なのだ。
大切な親友から彼女を奪うなんてできない。友情と愛情のどちらを取るのかと言われれば友情をとるつもりだった。
スザクもルルーシュも大好きだから2人に幸せになってほしかったから。
それなのに今、その親友のいないときに親友の部屋で、その彼女を押し倒している。
もうこれで、2人との縁が切れてしまうだろう。親友と好きな人を同時になくした。
そう思ったのに、ルルーシュがこんなこと言うから、私は、

「私は絶対にスザクを忘れない。私が愛するのはこれからもずっとスザクだけ」
「…う、ん」
「でもそれでも構わないなら」
「…え?」
「私はお前を利用する。スザクがいない寂しさを紛らわせるために」
「…」
「キスもさせない。絶対にセックスもさせない。だが、お前からの誘いを何よりも一番に優先させる」
「それって…」
「それでもいいなら、スザクが帰ってくるまで、付き合おうか」
「…それって、さ」

他より気が置けない友人でしかない。 それくらい分かっていたのに、その言葉を飲み込んでそれでもいいと頷いていた自分が情けなかった。















予定通り3ヶ月でスザクは帰ってくることになった。
それまでの間、時間がある限りルルーシュを誘ってデートと言い張り何回も遊びに行った。
その間約束どおり一回も手を出さなかった。
スザクがいない間にルルーシュと会っていることに罪悪感はあったけれど、 ルルーシュとのこの関係を初めてから実は自分の中でかなり気持ちが楽になっていた。
遠まわしのようではっきりと私と付き合う気はないと、この関係でルルーシュは言っていたから。
まだ好きだという気持ちは強い。けれどこれからは友人としてルルーシュと接していける気がした。

帰ってくるスザクを迎えに2人で空港に行った。
初めてのルルーシュからの誘いはスザクの迎えで、それが最後のデート。
スザクが帰ってくるまでとの約束だったし、もう彼女を自分から誘うことは絶対にしない。
それが自分なりのけじめだ。

「…ジノ」
「ん?なーに」
「…楽しかった、よ」
「え」
「私、お前と3ヶ月いっしょで、楽しかった」

ゲートから出てくる人波をまっすぐと見ながらルルーシュが言った。
突然のことに心臓が揺れる。
だって、今までそう言うことルルーシュは一度も言わなかった。
思わずじっと見つめてしまった。けれどルルーシュの視線は外れない。私も正面を見た。

「自分が寂しいからって、ジノの気持ちを知りながら利用して…最低だな、私」
「い、や、そんなことないって!だいたい悪いのは私だし」
「たとえそうだとしても。お前の好意に甘えてた」

どうしてこんなことを言うのだろうと、胸がばくばくする。
普段勝ち気な彼女がこんなことを言うなんて。
まるで、これで全ての関係(友人だとか、親友の彼女だとか、そんなの含めて全部)を消されるような気がして。

「お前に、最後に謝ろうと」
「言わないで!!」

謝罪を聞いたら全てが終わる気がして、夢中で彼女の口を自分のてのひらで塞いだ。

「ルルーシュは、なにも悪くない」
「…」
「だって、私が勝手に告白しただけだ。私を利用したと言ったけれどそれは違う。私が甘えてただけ」
「…」
「それに、ルルーシュはスザクに不義理なことは絶対にしなかったじゃん。私たちは、ずっと友人だったよ」
「でもっ」

今日、初めてルルーシュが私を見た。
私の手を外した彼女の手は、やっぱり細かった。
そしてその左の人差し指には彼女によく似合う指輪が光っていた。

「でも、私は…」

ルルーシュが泣きそう。
いやだ、泣かせたくない。ルルーシュにはいつも笑っていてほしい。

「じゃあ、こういうことにしよう!ルルーシュは私を利用した。でも私もルルーシュの寂しさに付け込んだ。 …これでおあいこ。それじゃ、駄目?」

最初に言ったとおりルルーシュとの間にキスもセックスもなかった。
彼女と会うときは、というかおそらく毎日絶対、彼女の左の薬指には指輪が光っていた。
勝てないことは分かっていた。
ルルーシュは最初の宣言通り、ずっとスザクだけを愛していた。
スザクに悪いと思っていたけれど、自分の気持ちに整理がつけられた、そんな3ヶ月だった。

「…ジノ」
「なーに?」
「…私、スザクの次に、ジノがすき、だよ」
「っ!!」
「ありがとう」

そう言ったルルーシュはきれいな笑顔で、初めて会ったときに見たスザクに対するそれと重なった。

(ごめん。ごめんスザク、ごめんルルーシュ。一回だけ…これで、忘れるから)

華奢な体を抱きしめた。
突き返されると思っていたのに優しく抱き返されて、情けないけれど泣きそうになった。















ゲートの奥に選手団が見えてルルーシュを離した。
ルルーシュにその事を告げると一瞬のうちに目が輝いて、やっぱり勝てないやと苦笑した。

「おーい、スーザク!!こっちこっち!!」

報道陣やらファンやらでひしめき合うそこ。
選手団が見えてきゃーと上がる歓声やシャッターの音に負けないように大きな声で名前を呼ぶ。
人並み外れた長身と生まれ持った金髪が役に立ったのか、飛行機疲れかこの人だかりにか、 うんざり顔のスザクはすぐにこっちを見た。

「ジノ!」
「お前のたーいせつなルルーシュもいるぞー!!」
「うわ、やめろ馬鹿!!」

私の名前を呼びつつもきょろきょろと視線を彷徨わせるスザクがおもしろくて、 隣でそわそわしていたルルーシュを抱き上げた。
よほど恥ずかしいのか顔を真っ赤にしたルルーシュが上から睨んでくる。

「ほらルルーシュ、スザクにお帰りは?」
「うるさい!!下ろせ馬鹿!!」
「言ったら下ろすよ」
「〜〜っ!!」

ルルーシュは気づいていないようだが周りは大注目だ。
ファンはなにやら悲鳴を上げているし記者は写真を撮っている。 選手団も歩みを止めてスザクを横から小突いてからかっている。

「ほら」

もう1回促すと、観念したのかルルーシュはもう一度キッと睨んで、真っ赤な顔のままスザクの方を向いた。

「っ!スザク!!」
「はい!!」
「…おかえ、り!!」
「っ!ただいま、ルルーシュ!!」

その時の2人の幸せそうな顔を見ると、やっぱり自分は絶対勝てないなと思ったし絶対2人に幸せになってほしいと思った。
ルルーシュのことはまだ好きだし当分その気持ちは消えそうにない。

(うーん。やっぱりスザクに向ける笑顔には勝るものはないな)

けれど、きっと自分はスザクが好きなルルーシュが好きなわけで、 一番すきな彼女の表情はスザクにしか引き出せないと知っているから。

(とりあえず今は、)

「じゃあ逃げようか、ルルーシュ!」
「は?」
「周り、みんな私たちに大注目ー!!」
「っ!!この馬鹿ジノ!!」

こちらに集まってくるファンや報道陣から逃げきり、 同じように囲まれて今から逃げるだろうスザクにこのお姫さまを無事渡してやろうと思う。

「ルルーシュ!」
「な、んだっ!」
「私、スザクが好きなルルーシュとルルーシュが好きなスザクが大好きだ!」
「…っ」
「だから」
「うん」
「だから、お前ら絶対に幸せになれよ!!」

絶対に絶対にだぞ!!
そう言ったときに返されたルルーシュの笑顔は、やっぱり綺麗だった。




















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ジノのひたすら片思いのスザルル♀←ジノでした。
個人的にジノルルはスザルル前提が一番すきなのでジノがこんな可愛そうなことに…
元はSS板に書いてたんですがそっちに書くには長くなりすぎたのでこっちでアップ。
なんかジノに幸せになってほしいがどうしようかと考え中です。たぶん彼にはこのまま(笑)

ちなみにどんな理由でスザルルを遠距離にしようかと思って、 そういえば今年はオリンピックだと思いスザクを日本強化選手にしてみたり。
あとスザルルジノは大学生です。スザルルは幼馴染で、スザとジノは大学に入ってすぐに仲良くなりました。
そんな裏設定。



2008.07.09