俺たち健気なこどもたちの続編。
前回同様深く突っ込んで考えた方が負けな話です。
いろんな人たちが出てきます。俺スザク×にょたルルですので苦手な方はお戻りを。





占領国の皇女と被占領国の首相の息子、 という特異な関係のために7年間も同棲しているのに学校では他人のふりをしていたルルーシュとスザクの本性がばれてからはや3週間。 人間の適応能力とは凄いものだなとクラスメイトをはじめとする学園の全員が思い始めていたころ、 再びとんでもない爆弾が落とされようとは一体誰が予想できただろうか。
それは本人たちですら忘れていた。冒頭で述べられた理由があくまで「表向き」だったということを。










親愛なる我らが姫君










いま思うと昔のあいつらって不自然だったよな。
こう漏らしたのは問題のスザクとルルーシュの友人であるリヴァル・カルデモンドである。
問題のあの日からこっち、二人の性格と関係は正反対と言っていいほどまでに変わったというのに今では誰もが現在の状態が当たり前のように感じることに対しての発言だ。
これに反論する人は誰もおらず、みな不思議と頷いて同意するだけだった。
それほどまでに猫を投げ捨てた(「脱ぎ捨てた」なんてもんじゃないだろう、とこれもリヴァル談である) 二人が隣にいるのはここ数年の認識をあっさりと覆せるほど自然なのだ。



「あらあ、もう他人ごっこは終わったの?」

次の日、朝一番で教室に乗り込んできたミレイは、まだ衝撃から抜け出せないクラスメイトを後目に鬱陶しいくらいべったりとくっつく二人を見てこう言った。
声は楽しそうだったが表情がそれに合っていない。
不満だというのを隠そうとしないその表情に、ルルーシュは本来の性格と口調でばっさりと切り捨てた。

「こいつのせいです」

隣をびしっと指さしたルルーシュの眉間のしわに男どもが泣き崩れる。
比喩ではなく本当にすすり泣く声が教室や廊下に響いていた。
けれど当事者たちはそんなのには興味がなく、むしろ指をさされた彼、スザクの口調にひっそりと彼に想いを寄せていた女子生徒たちの泣き声を加える結果になった。

「は?お前のせいだろ!――じゃないか。あのムカつく男のせいか」

チッ、という舌うちが教室に響いたのは間違いではなく、その発生元が昨日までは物腰柔らか温厚スザク君というのも間違いではない。
もっというと、窓際に立って話していた昨日までただのクラスメイトだったはずのスザクがルルーシュの細い腰をさらに引き寄せたのも間違いではなかった。
次々に突き付けられる現実に、全てを知っていたミレイだけは先ほどまでの不満顔から慈愛に満ちた表情に変えた。

「でもあなたたちはその方がいいわ。前なんかよりずっとしっくりくる」

でも今度おもしろいことをするときはあたしがいる時にしてね!
学園中に衝撃を与えた出来事をおもしろいことの一言で片づけたミレイは、思わず見惚れてしまうような笑顔で颯爽と去って行った。



そんなこんなで周りだけが掻き乱された事件の翌週には、全員がミレイと同じ感想を抱いていた。
それでもやっぱりたまに性格のギャップや二人のバカップルぶりに戸惑うことはあるけれど、どちらかというと以前より親しみを感じるようにさえなっていた。
ワイルドなスザク君も素敵!や女王様と呼ばせてください!など妙なファンが彼らに増えたのも事実だけれども。



「なあスザク、今日ひま?」

学園の誰よりもいち早く順応したリヴァルが向かい合って昼食を摂るバカップルの片割れに声をかけた。その後ろに他に二人いる。
性格や口調は荒くなっても元は礼儀作法などはしっかりしているスザクはちらりとリヴァルに視線を向けると、 口に含んでいたルルーシュお手製の弁当(和食)を飲み込んで売店で買った牛乳を一口飲んでから答えた。

「あー今日は無理。なんか用?」
「ほら、いつものだよ、い・つ・も・の!」

いつもの、とは不定期にクラスの男子だけで女子に内緒で行っている親睦会のことだ。
といっても親睦会とは名ばかりで、つまりは年頃の男子が集まってそういう雑誌やDVDの話で盛り上がる青少年らしいピンク色の雑談会である。
にやにやと笑ってスザクを小突くリヴァルと、ああ、とどこか居心地悪げに視線の定まらないスザク。
その二人の様子に「いつもの」がどのようなものか悟ったルルーシュは昼食のサンドウィッチを食べようとした格好のままでスザクをじろりと睨んだ。
厭味の込められたルルーシュの視線に慌てたスザクは思わずリヴァルの肩を掴んでがくがくと揺さぶった。

「だから、無理だって言ってんだろ!無理、無理っつたら絶対に無理!」

いっそ清々しいまでの動揺っぷりだ。
恋人の前でそういう話を持ち出すリヴァルもリヴァルだが、あまりのスザクの暴挙に共に来ていた1人がスザクを剥がしもう1人がリヴァルを支える。
食後に胃を、というか体全体をシャッフルされたリヴァルは顔色を悪くし口元と胃のあたりに手を添えてしゃがみ込んだ。
うっすら目に涙を溜めながら、リヴァルは下から恋人のご機嫌取りをはかるスザクと存外嫉妬深かったルルーシュを見上げる。
存外というのはもちろん猫被りのときと比べてであり、本性を知ってからはお互いの独占欲の強さにはまさに脱帽であるが。
ちなみに3週間で知ったことは独占欲の強さだけじゃない。二人の間における力関係もだ。
基本的にスザクはルルーシュに弱いらしかった。
俺様と女王様で喧嘩をしても謝るのはスザクからだし、ちょっとしたことで機嫌を悪くしたルルーシュをスザクは必死で宥める。
スザクは尻に敷かれてるな、というのがみんなの意見だったがリヴァルはこっそりと思った。

(というか、スザクがルルーシュを大切に大切にしてるんだよな。牽制を含めて分かり易く)

決して一方が優位に立っているわけではない。お互い同じくらい大切に思っている。
ただそれがわかり易いかそうでないかの違いであるだけだ。
現にルルーシュは毎日スザクのために自分のとは中身の異なる弁当を作っているし。
そう思うとリヴァルは急におかしくなって抑えていた口から笑い声が漏れた。

「お、おいルルーシュ、なに怒ってるんだよ!」
「別に怒ってなどいないが?それともお前は俺が怒るようなやましいことでもあるのか?」
「う…、いや、だからそんなのないって!」
「ふーん。じゃあ俺は怒ってないんじゃないか?」

焦るスザクに淡々と喋るルルーシュ。
表情もころころと変わって、以前の彼らでは見せなかった表情がたくさん溢れる。
少々うざいくらいバカップルでもこっちの方が全然いいや、とリヴァルはようやく治まってきた吐き気に口と胃から手を離して立ち上がった。

「別に俺は他の日でもいいけどスザク」
「いやいや行くから!行くっつてんだろルルーシュ!!」
「なにお二人さん。二人でどっか行くの?」

どこかこの応酬を楽しんでいる感じの二人に声をかける。

「ん、ああ、ちょっとルルーシュと買い物に行くんだよ」
「ああデートですか」


このとき誰も知るわけがなかった。
このやり取りがこれより後に訪れるとんでもない爆弾を防ぐことができた唯一のチャンスだったのだと。

茶化すんじゃねーよ、というスザクの声と笑い声が昼間の教室に響いた。
























2008.11.22